オデーサ郊外に広がるのどかな村々。そこから少し離れた、開けた草地に機銃訓練場があった。

第122独立領土防衛旅団・機動防空部隊の兵士たちが整列し、指揮官から訓練内容の説明を受ける。兵士が弾薬箱から12.7mm弾を取り出し、ひとつずつ金属の給弾ベルトに押し込んでいく。この日は、2つの重機関銃、CANiK M2(ブローニングM2のトルコ版)とDShKが使われた。

指揮官が、「シャヘド」に見立てた模擬標的弾を打ち上げる。シューンと空高く上がると、それをめがけて機銃が火を噴いた。

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模擬標的に命中させたイホール曹長。DShK(ДШК)はソ連時代に開発された重機関銃で、デーシュカと呼ばれる。(2024年4月・撮影:玉本英子)
撮影のためにGoProカメラを取り付け、DShkを上下左右に振らしてもらったのだが、ずっしりと重かった。(2024年4月・撮影:玉本英子)

◆防空網すり抜けたシャヘドを機銃で仕留める

ウクライナは、連日のようにミサイルや自爆型ドローンの攻撃にさらされている。軍事施設だけでなく、行政機関、電力インフラや住宅地までも狙われる。

レーダーが飛来物を探知すると、複合的な迎撃態勢がとられる。電子戦システム、地対空ミサイルのほか、旧ソ連製のイグラやストレラ、西側のスティンガーといった携帯式防空ミサイル、ゲパルト自走対空砲と機関砲などを複数組み合わせて対処するが、すべてを破壊できるわけではない。超音速ミサイルや弾道ミサイルは高速で撃墜が難しい。

他方、シャヘドは、ウクライナ全土に何十機も飛来するため、何割かは防空網をすり抜けてしまう。機動防空部隊は、それらを阻止する「最後の盾」である。

イランから供与されたシャヘド136を、ロシアは「ゲラン2」として国内でライセンス生産。夜間に飛来するタイプは黒い機体になっている。(ウクライナ国家警察公表写真)
シャヘドが飛来するのは、迎撃されにくい夜間が多い。部隊はチームでエリアごとに巡回警戒する。防空司令部が侵入機を探知すると、位置を特定し、現場に向かうよう指示が出る。(第122独立領土防衛旅団公写真)

機動火器群の中隊長、イホール曹長(43歳)は、部隊随一の射手で、これまで何機ものシャヘドを撃墜してきた。自身がユダヤ系であることから、コールサインは”Jew”。

彼は、DShK重機関銃を指さして言う。

「防空網を突破したシャヘドを、これで撃ち落とします。しくじれば、シャヘドの目標到達を許すことになります。だから、なんとしても阻止します」

どの隊員たちも、住民の命が自分たちの腕にかかっている、との思いだった。

オデーサ一帯にシャヘドが侵入するのは、夜間の時間帯が多く、複数機で飛来する。ロシアがイランから供与されたシャヘドを、独自に「ゲラン」の名で量産化してからは、攻撃はいっそう激しくなった。防空司令部は、レーダーでシャヘドの位置を特定し、地上でチームに分かれて、エリアを常時巡回して警戒する機動防空部隊に向かうべき場所を指示。指揮班が赤外線サーマルカメラで捉え、レーザーポインターでマーキングして、そのレーザー指標をもとに、重機関銃で迎撃する。

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「この任務につくようになってから、妻、娘と息子をとても愛しているということに、あらためて気づいた」とイホール曹長は言った。(2024年4月・撮影:玉本英子)

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