◆リスク評価対象からの除外目的か

わざわざ報道発表を極力しないでよい仕組みづくりについて、市長をトップとする推進本部会議で話し合って合意した。ということは、報道発表しない方針を決めるのに永藤英機市長も関与したことになる。
会議の議事要旨によれば、永藤市長は「アスベストが検出された際には施設毎に用途や利用状況等は異なるため、公表のタイミングもその実情に応じたルールが必要と考える。公表にあたっては、必要な手続きを踏んで迅速に進められるよう全庁的な共通ルールを整理してほしい」と求めた。市長は「公表」時の「全庁的な共通ルールを整理してほしい」と求める一方、報道発表のあり方について言及していない。基本的に報道発表しないことが実質的に「全庁的な共通ルール」として定められたことを果たして理解していたのだろうか。
もう1つ重要なことがある。
吹き付け石綿の再調査結果が判明した2022年には、そのきっかけになった日置荘小学校など4校の児童らの石綿ばく露をめぐる健康リスク調査が市の設置した懇話会で実施されていた。市が鳳南小学校や平岡小学校の吹き付け石綿見落としについて、あたかも何の問題もないかのような説明を保護者に対してしたのは、ちょうど吹き付け石綿の露出がない福泉小学校と登美丘西小学校の2校も含めてリスク評価をすることが決まり、具体的な検証方法が議論されている最中だった。
今回例示した鳳南小学校と平岡小学校の2校ではいずれも吹き付け石綿が露出し、劣化・損傷もあったと考えられる。であれば、本来ならこれら2校についても同様にリスク評価の対象に加えてしかるべきだったはずだ。
少なくとも市は懇話会に対して調査結果を説明し、リスク評価の対象とするかを議論してもらうなどの対応が当然であろう。筆者は市の懇話会をほぼすべて傍聴取材しており、傍聴できなかった会合も録音データなどで当日の内容を確認しているが、今回の2校の状況が説明されたことはなかったことから、市教委がそうした対応をしていないことは間違いない。
あるいは水面下で秘密裏に委員らに説明し、対象としない方針の合意を得たということがあり得るのか。当時委員の1人だった大阪アスベスト対策センター幹事の伊藤泰司さんに確認したが、「(そうした検討は)やっていません」と否定した。
おそらく市は健康リスク評価の対象が増えることをなんとしてでも避けたかった、というのが真相ではないか。当時懇話会に対して吹き付け石綿が露出していた鳳南小学校や平岡小学校の事例が示されていれば、これらも健康リスク評価の対象になった可能性が高い。だからこそ、市は報道発表を避け、あえて資料を懇話会にも示して意見を聞くこともしなかったのではないか。市教委学校施設課は否定するが、現状それ以外の理由が見当たらない。
事実それは成功を収め、懇話会から再調査結果を質されることもなく忘れ去られた。
堺市民で被害者団体「アスベスト患者と家族の会連絡会」世話人の古川和子さんは、「保護者も私たちもみんな堺市に騙されたってことですよ」とため息をつく。
ところが3月の市議会で長谷川俊英市議に追及されて改めて表面化した。結局、市は報道発表の対応について改めて検討すると答弁した。その結果はまだ示されておらず、明確な方針は示されていない。
古川さんは、「堺市はとにかく隠したいようにしかみえない。市のHPなんて市民はまず見ませんから伝わりません。市はこれまで報道発表しなかった事案も含めてきちんと説明したうえで改めて報道発表すべきです」と批判し、改めて改善を求めた。
今回の問題をふまえて堺市の“隠ぺい体質”が多少なりともましになり、2つの小学校を懇話会の検討対象から“排除”した真相が明らかにされることを願う。