愛知県一宮市内の積み替え保管施設に産廃業者サーラインが野積みしたアスベストを含む成形板などの山の1つ。同社は約1400立方メートル放置。市が飛散防止の代執行に踏み出そうとしているが、そこにも問題が(一宮市提供)

◆安全確認の測定も「なし」

さらに今回の代執行による飛散防止措置が適切だったかを確認するための空気環境測定もしないのでは安全確認ができておらず、片手落ちといわざるを得ない。

まして市は現場内に放置された成形板について、どのような種類があるのかわからないと認めており、高濃度の石綿飛散を起こしやすい「けい酸カルシウム板第1種」があってもおかしくない。

建物などの改修・解体時のけい酸カルシウム板第1種の除去では、切断・破砕などをともなう場合は、作業場内を隔離のうえ、対象を常時湿潤して除去することが大防法や石綿則で義務づけられている。つまり、散水による湿潤化だけだと建物解体などでは違法と判断される可能性があるのだ。もっとも規制上の不備により、建物などの改修・解体作業ではない場合は、破砕状況が劣悪だったとしても形式的に湿潤と労働者のばく露防止措置があれば、適法ではある。

いずれにせよ、現状、市の計画は法令すれすれの最低レベルの対策といわざるを得ず、安全性が確保されているとは言い難い(皮肉なことだが日本の規制を守るだけでは安全性は確保されないことがしばしばある)。

市は「監督署に確認してその方法で問題ないとの回答を得ている」(廃棄物対策課)というのだが、労働者の保護を目的とした安衛法と生活環境の保護を目的とした環境法令ではしばしば考え方が異なる。監督署に単に法令上の義務を聞けば、上記の通り、そう答えるのは当然なのだ。

実際に一宮労働基準監督署にも尋ねたところ、一般論としてだが、湿潤剤の使用については「より性能が良いものを使っていただいたほうが望ましい」と答えた。測定についても、「やっていただくことはより好ましい」と説明している。

市は「国のマニュアルなどにも記載がなかった」(同)とも抗弁する。単なる散水では石綿の種類によっては十分な効果が得られない可能性があることはマニュアルに記載があることだ。今回のような事例についての対応について明確な記載がないのは事実だが、だからといって対応レベルを最低限まで下げることが本当に正しいのか。まして空気環境測定による安全確認すらしないのでは、対策の妥当性を説明することすらできない。

筆者は対策の見直すべきではないかと尋ねたが、市は「いまからでは難しい。今後の参考にさせていただきます」(同)などと回答した。

一宮市は「生活環境の保全上支障が生ずるおそれがある」からこそ実施する市の代執行について、安全確保のあり方を再考すべきだ。現状では代執行の意義が失われかねず、市の良識が疑われよう。

 

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