
今年の北朝鮮の田植えは、例年と様相が大きく異なっているようだ。これまでは、高級幹部から小学生までの全国民が「総動員」されて援農作業に当たるのが伝統的な慣行であった。アジアプレスの内部協力者によると、今年は、農場が提示する必要な労力需要に応じて、工場や企業が人員を派遣、農場がその人件費や食費などを負担する方式に変わったという。金正恩政権が近年試みる農業政策改編の流れの一環とみられる。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)
◆「総動員」から計画動員へ
毎年春になると、北朝鮮では田植えや草取りに全国民が動員される「総動員期間」が宣言される。しかし、今年は官営メディアからも、アジアプレスの内部協力者の報告からも、「総動員」の消息は聞こえてこない。
代わりに、新しい農村動員方式が登場したことを、アジアプレスが確認した。両江道(リャンガンド)に住む協力者A氏は、4月、今年の動員方式について次のように伝えてきた。
「いつからいつまでどんな作業があり、そのためにどれくらいの人手が必要かを農場が決め、事前に企業や機関、団体に伝えると、(それに応じて)動員された人たちが送られてくる」
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の協力者B氏も5月末、次のように伝えた。
「今年は全員が農村動員されるわけではないので、急き立てられたりすることはない」
国家の号令の下、全国的で一斉人員を大規模動員する過去とは大きな変化だ。
この変化の背景は何だろうか?

◆「もはやタダ働きではない」…動員者の手当と食事は農場が保障せよ
近年、金正恩政権が推進する農業政策の改編により、北朝鮮は農場を「社会主義農業企業体」と規定し、生産、流通、価格決定に、一定の自律権を与えている。
代わりに、これまで国が供給していた営農資材や労力などは、農場が独自に解決しなければならなくなった。それに伴い、農場が必要とする動員人員に対しても、農場が対価を支払う方向へ変わったわけだ。
A氏は現地の状況を次のように伝える。
「以前はタダで動員されていたが、それも変わった。今年からは動員された人に、1日900ウォンの対価もしくは食糧を農場が支給しなければならない」
※北朝鮮1000ウォンは、約5.2円(6月初時点)。白米1キロは約1万1500ウォン。
B氏も「(動員人員の)食事は農場が負担し、対価も農場で働いた分を銀行を通じて(企業所に支払い)処理される。工場や企業所は動員人員の出退勤管理だけをやって、費用はすべて農場が負担することになった」と話した。