食糧を買い求めに糧穀販売所を訪れる住民たち。「ヨンプン糧穀販売所」という看板が見える。2024年10月、両江道恵山を中国側から撮影(アジアプレス)

最近、咸鏡北道(ハムギョンプクド)羅先市を通じて流入したロシア産小麦粉が、咸鏡北道と両江道(リャンガンド)で安定的に供給されていることが確認された。北朝鮮最大の銅鉱山である恵山鉱山にも小麦粉が供給されており、一般住民は食糧専売店の「糧穀販売所」で世帯当たり5~10キロを購入できるという。 (チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)

◆恵山鉱山に供給、一般住民も10キロまで購入可

両江道に居住するアジアプレスの協力者A氏は、6月初め、現地の状況を次のように伝えた。

「最近、恵山鉱山にロシア産小麦粉が供給されました。『糧穀販売所』でも小麦粉の販売があり、1キロ当たり9000ウォンで、1世帯10キロまで購入可能だ」
※北朝鮮1000ウォンは、約5.2円。白米1キロは1万1250ウォン(いずれも6月初時点)。国営企業の一般労働者の平均労賃は3万5000ウォン程度。

恵山鉱山は北朝鮮最大の銅鉱山だ。こうした大規模な国営企業にまで、従業員配給用としてロシア産小麦粉が供給されているということは、相当な規模の食糧がロシアから流入していることが推察される。

◆「糧穀販売所」で販売も…住民は現金がなく取引低調

咸鏡北道の協力者B氏も6月初旬、ロシア産小麦粉の流通について具体的に伝えてきた。

「『糧穀販売所』で、羅先を通じて入ってきたロシア産小麦粉が週1回販売されている。世帯あたり5キロずつ購入できるが、用途を明らかにすれば20~30キロ購入することも可能だ。国営企業には『労補物資』として、中国産トウモロコシやロシア産小麦粉が支給されている」
※労補物資:国家が配給や賃金とは別に労働者に追加で支給する食糧や酒、タバコなどのこと。

しかし、一般住民の多くは現金収入が乏しく、「糧穀販売所」へ小麦粉が入ってきても、高くて実際に買うのは容易ではないという。

◆絶糧世帯には無償支援、パンを生産して優先供給

B氏によると、ロシア産小麦粉は「脆弱世帯」などへの無償支給が始まったという。

「『糧穀販売所』で(住民に金がなくて)小麦粉が売れないため、工場でパンに加工し、『絶糧世帯』や高齢者、栄誉軍人(傷痍軍人)、教員などの優遇対象に無償で供給されることもある。特に『絶糧世帯』へは、人民班長と洞事務所が確認した上で、月約5キロの無償支援が行われている」

※食べ物も、それを買うお金も底をついた家庭のことを「絶糧世帯」と呼ぶ。

北朝鮮はウクライナに侵攻するロシアへ、弾薬やミサイルなどの大量の武器を提供してきた。さらに、昨年末からは軍部隊を派遣して参戦している。北朝鮮国内で流通しているロシア産小麦粉は、このような軍事支援の対価である可能性が高いだろう。

北朝鮮の食糧事情に一定の助けにはなっているのは間違いないが、一般住民の窮乏の主原因は現金収入が乏しいことだ。ロシア産の小麦粉の流入が、住民生活の助けになるかは未知数だ。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

北朝鮮地図 製作アジアプレス

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