ダイナモ道場を運営するヴィクトル・コマリョフ師範は話す。

「柔道は私たちにとって、スポーツを超え、生きる指針です。意志力を鍛え、礼節を学ぶなかで、心のありようや自身と向き合う姿勢を教えてくれます。人生哲学そのものです」

ウクライナで広く親しまれてきた柔道。だがロシア軍の侵攻にさらされた地域では、閉鎖を余儀なくされた道場も少なくない。

プーチン大統領は「柔道家」として知られる。そのことをどうお思いでしょうか、と私はコマリョフ師範に聞いた。すると彼は顔を曇らせた。

「私たちの国土が力づくで奪われ、ミサイルで市民、子どもが毎日のように殺されています。残念ながら、彼は柔道の精神や哲学とは程遠い人間と言わざるをえません」

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道場の壁には、柔道の父、嘉納治五郎の肖像画が掲げられていた。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)
侵攻で閉鎖された道場も少なくない。ザポリージャの道場には、各地から避難してきた子どもたち、約40人が通い、ともに練習している。(2024年2月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

道場には、地元の練習生に交じって、戦闘地域から逃れてきた子どもたち、40人が通う。

師範は言う。

「戦争は子どもに深刻な影響を与えました。心を閉ざしている子も少なくありません。柔道が心の平静を取り戻させてくれています」

オリヒウは昨年、ウクライナ軍の反転攻勢の拠点となった町でもある。現在もロシア軍とウクライナ軍の対峙が続く。(地図作成:アジアプレス)

◆破壊の町、オリヒウから逃れ

この道場に通う避難民の子どもの半数以上が、オリヒウの出身だ。

ロシア軍はオリヒウの7キロに迫り、ウクライナ軍が攻防を続ける。激しい砲撃と爆撃で、かつて1万3千人いた住民のほとんどが脱出した。

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オリヒウ市内の学校。壁は吹き飛び、教室がむき出しになっていた。右にあるのは破壊されたスクールバス。砲撃音が絶え間なく響いていた。(2023年5月・オリヒウ・撮影:玉本英子)
前線地帯のためウクライナ軍の許可を得てオリヒウに取材に入った。町は破壊され、教会は崩れ落ちていた。わずかに残る高齢者を除き、住民のほとんどが脱出(2024年2月・オリヒウ・撮影:玉本英子)

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