◆石綿の危険性説明なし
一方、市側の対応そのものには問題が少なくなかった。
すでに述べたように、本来真っ先に説明しなければならないはずである石綿の有害性、危険性について説明会で一切言及しなかったのは論外だ。これでは何のために説明会を実施したのかわからない。
当日参加した、夫を石綿被害で亡くした遺族が「石綿は本当に危険なものなんですよ。市はきちんと説明してほしい」と必死に訴えていたのはそれが理由だ。しかし市側に伝わっていないのではないか。
また今回の石綿除去で先進的な第三者監視の仕組みが導入されているが、欠点もある。じつは監視は「常駐」ではないのだ。委託費用の問題ということだが、作業開始から1週間程度集中的に実施し、その後は1週間に一度といったふうに頻度が減ると同協会は明かした。
もちろん事業者による自主的な管理は実施されるはずだが、その有効性は実質的に事業者任せであり、はっきりしない。石綿の漏えい事故が少なくないなか、実際に石綿の漏えいの有無を測定するのは週に1回(2時間ないし4時間)だけというのは変わりない(デジタル粉じん計による確認は作業開始時や中断時ごとに実施)。
夏休み期間に除去作業を実施しないことに筆者が苦言したところ、同課は「説明会の開催で作業が遅れた」などと事実と異なる説明をした。
市の石綿対策の改善を求めて活動してきた、堺市民で被害者団体「アスベスト患者と家族の会連絡会」西日本支部世話人の古川和子さんは「ほかの学校で採用したように、児童の居ない土日などに作業を限定すべきではないか」と指摘した。
2024年度に機械室の吹き付け石綿を除去した百舌鳥支援学校分校では土日のみの作業だった。
児童らが居ないときにおこなうのは対策の基本である。しかし保育園や学校の石綿除去が不適正で子どもたちが石綿にさらされる事故が何度も起きてきた。
2006年7月の事務連絡で文部科学省は、「児童生徒や教職員等に対しても十分説明を行うとともに、工事内容によっては、児童生徒等の在校時には作業を行わないなど、児童生徒等の安全対策に万全を期すようお願いします」と求めた。最近でも2023年1月、厚生労働省は、児童らが滞在する「児童福祉施設等において不適切な工事が行われた事例が見受けられた」として、社会福祉施設等において「児童が施設を利用していない時間帯での工事の徹底などの必要なアスベスト対策について改めて万全を期す」ことを全国の幹部向け会議で確認している。
しかし堺市教育委員会学校施設課は「集中的に作業したほうが効率が良い。卒業式・入学式に体育館を使いたいと要望がある」などを理由に拒否。筆者が再度、安全確保の観点から重要性を指摘したところ、市はほぼ同じ回答を繰り返し、続けて会の終了を宣言。質疑を打ち切った。
翌7月25日、市教委に確認したところ、除去作業が9月からとなったのは発注の遅れが原因で、説明会が理由で作業日程が遅れた事実はないことを認めた。市の対応に原因があるにもかかわらず、作業日程が遅れた責任を説明会の開催を求めた保護者に虚偽説明で押しつけるなどあってはならない。市は猛省すべきだ。
説明会後、保護者の1人は、「第三者監視のない時の石綿漏えいが心配です。その期間は学校を休ませることも考えています」と不安を語った。
石綿除去の経験の長い現場管理者に聞いたところ、「いま昼間はとんでもなく暑い上、防じんマスクや防護服を着用するので石綿除去の現場は本当に大変です。正直、夜間作業にしたほうが児童らや作業者の両者にとって都合がよい。作業効率も上がるし、深夜手当てももらえますから、現場もよろこぶと思いますよ」と話す。
夜間に限定した石綿除去作業は、デパートや鉄道の駅など、テナントとの契約があったり、多数の利用者がいるなど、昼間の作業が困難な場合にしばしば採用されており、珍しいものではない。
記録的な猛暑が続くなか、無理をして児童らの居る昼間に除去作業をする必要などないはずだ。児童らの石綿ばく露の確実な防止のためにも、文科省や厚労省が求めるように児童が居ない時間帯の作業を「徹底」すべきではないか。
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