
北朝鮮では、農繁期に企業や女性同盟などから住民が大規模動員される農村動員が次第に消えつつある。一方で、軍人の農村派遣が日常化しているという。今年に入り、かつては無償だった動員者の人件費が農場負担になったため、農場では住民の受け入れを忌避する動きがある一方で、「タダ働き」してくれる軍隊の派遣を歓迎しているという。農場の自律性が政策によって強化される中、農場の負担を減らしつつ農業生産を維持しようとする当局の意図があるとみられる。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン)
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◆「軍隊にはとても助かっている」と喜ぶ農場
アジアプレスの取材協力者が、両江道(リャンガンド)高邑(コウプ)農場の農場員を通じて8月初旬に伝えてきた。
「企業所や女性同盟からは動員されず、軍隊がたくさん派遣されている。2個小隊または1個中隊(60~100人)規模が、駐屯地で(担当する)農場を割り当てられて毎日のように出てくるそうだ。高邑農場でも今年から軍隊が定期的に来るようになり、とても助かっている。草取り、圃田管理、傾斜面の畑工事、水路工事のような、力が必要な仕事をもっぱらやっている」
※女性同盟:正式名称は「朝鮮社会主義女性同盟」。主に職場に籍を持たない主婦で構成される社会団体。
農場側は軍人による援農を歓迎しているという。
協力者は、「企業所から動員に来ると労賃の問題が生じるので、農場では軍隊が来てくれるのを歓迎している。農場員たちは軍隊が定期的に来ることで仕事が楽になると言ってる」と述べた。
企業から援農に派遣されてきた場合、動員者の人件費や食費を農場が負担する制度に変わったため、無償労働力である軍隊の派遣を喜んでいるというわけだ。
今年6月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)でも、援農作業に軍隊が動員されているという同様の報告があったことから、国家的な政策である可能性が高い。
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◆兵士によるヤギ泥棒が発生 軍民関係に当局は敏感

軍隊はかなりの頻度で農村に動員されているようだ。
協力者は次のよう話す。
「2日に1回ずつ交代で出てくるように勤務表が作られているが、実際は警戒勤務の人員を除いて、皆出てくるそうだ。主に軍部隊周辺の農場に派遣するが、遠い場合は、移動手段を農場が負担しなければならない場合もある」
一方で、軍民関係を毀損しないために軍当局が兵士らの統制を強化していることもわかった。
「軍民関係に問題が発生しないように厳しく統制しているが、(食糧が)十分に供給されていないためだろう、兵士らは皆弱っているそうだ。そのため、農場では間食としてグクス(麺)やジャガイモを提供しているそうだ」
協力者は、「もし兵士が問題を起こした場合、該当部隊の幹部も連帯責任を負うようになっている」として、最近発生した事例を紹介した。
「農場で軍人がヤギを盗んだことが判明し、国境警備旅団が(盗まれたのより)もっといいヤギを渡したことがあった」
軍隊が農村に日常的に動員される事例は、北朝鮮当局の経済改編と関連しているはずだ。ただ、アジアプレスで確認できたのは北部地域の農場に留まり、全国的な動きであるのかについてはさらに調査が必要だ。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
