◆英雄扱いされても子供の死を喜ぶ親はいない

A氏は、戦死者を英雄として表彰することについて冷静な見方を示した。
「ここ(居住地)には子供がロシアに派兵された家はないようです。それでも軍隊に息子・娘を送っている親たちは、皆一様に心配しています。
仮に英雄称号をもらったとしても、子供が死ぬのを喜ぶ人なんていませんよ。それに、国から英雄扱いされてもお金や配給がもらえるわけではない。もしもらえたとしても、子供と交換できるわけではありません。
今回の戦死者の遺族には、遊園地や(元山に開業した)葛麻(カルマ)地区の観光ホテルの優先奉仕券、列車の乗車券を無料で与えるそうです。それから祝日ごとに政府が慰労の品を与えると言っていました」
◆始まった「現代の英雄神話」作り
また、咸鏡北道に住む別の協力者B氏は、国家表彰式が行われる前の週に、青年を対象とした講演会があったと伝えてきた。B氏は労働党員である。
「地元の青年同盟組織の幹部から、『青年教養資料』と題された講演内容の資料を見せられました。8月11日付でした。内容は、青年たちがあらゆる分野で突撃隊の役割を果たすべきだということ。特別軍事作戦に参加した軍人たちは我われの時代の英雄であり、共和国の忠実な息子娘だということ。若い青年たちは率先して彼らの英雄的な犠牲精神にならおうというものでした」
B氏によれば、その資料には「社会主義は我われ人民の命であり生活です。青年たちは社会主義の未来の主人公、建設者です」という金正恩氏の「お言葉」が記載されていたという。
また、前出のA氏は、地元の青年同盟で「軍への集団入隊や、総爆弾決死隊になるという嘆願式を行うと聞いた」と述べた。
ロシア派兵を契機に、金正恩政権は「現代の英雄神話」作りを始めたのは間違いないと見られる。
※青年同盟:正式名称は「社会主義愛国青年同盟」。高級中学(高校に相当)の生徒、大学生から概ね30歳までの勤労青年までを組織する労働党傘下の大衆組織。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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