◆ 軍隊が農村を包囲、食糧を収奪

キム・チュンヨル氏は23年春に状況が悪化したのは、当局による「包囲作戦」が理由だと話す。キム氏によると22年秋、金正恩政権は軍隊を動員して農村を包囲し、食糧が流出するのを遮断した。これにより、住民たちは冬の食糧を確保できなかったという。

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「22年秋にこれまでにないほど、国家が食糧問題に介入しました。私たちの地域には5つの軍団が入り、軍人たちが農村まで来て、秋の収穫物と食糧が流出しないように路地で見張りました。女性たちのバッグまで捜索したんです。あんな取り調べに遭ったのは初めてでした」

軍兵士が農村の収穫現場でトウモロコシを引き渡されているようだ。畑で直接軍糧食糧を供出することが当たり前になっている。2023年9月平安北道朔州郡を中国側で撮影アジアプレス

キム氏はその理由についてこう説明する。

「国境が封鎖されていた20年、21年に、国が戦略物資(戦時食糧)を供給しました。その供給分を補充するために、締め付けたということです」

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◆ 統計上には現れない餓死者

パンデミックの間、特に2023年春に住民の間で相当数の死者が発生したことは明らかだ。しかし、当局の公式的な統計には餓死者は存在しない。

キム・チュンヨル氏の言葉から、そのヒントを見つけることができるだろう。

「『飢え死に』という概念の定義をどう捉えるのかという問題があります。家に少しでも食糧が残っていれば、飢え死にとは捉えません。例えば、食糧を月10キロ確保していた家が、5kgしか得られなかったら、食べる量を減らすしかありません。肉は滅多に食べられず、身体も次第に弱くなり免疫が落ちます。そんな状態でちょっと転んだり軽い風邪や下痢にかかったりすると、簡単に死んでしまうんです。だから北朝鮮には、飢えて死んだ人は一人もいません。病死や事故死として処理されるのです」

キム・ミョンオク氏も同様の証言をする。

「コロナよりも、後遺症で死んだ人が多いです。コロナの時は、あまり死にませんでした。コロナにかかってもすぐ治りました。でも、その後が問題です。微熱が続き、免疫が落ちて結核や癌で死ぬ人が多かったです。やせ細って死にました。今年(2023年)は空き家が多い年だ、という言葉があちこちで言われました。人がたくさん死んだということです」

カン・ギュリン氏は「コロナにかかっても、薬を飲まずに治る人もいましたが、後遺症に耐えられなかったようです。ろくに食べ物がないじゃないですか。だから長く患って死ぬ人が多かったです」と話す。

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