
2019年、横浜で開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の会場で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の展示では西サハラ住民の難民キャンプだけが消されていた。また西サハラは消されるのか。TICAD9に湧いたこの夏、横浜と東京の53会場を訪ね西サハラを探した。(岩崎有一/写真はすべて筆者撮影)
◆モロッコ産? 官民ともに見られる不自然な表現

現在、西サハラはどの国の領土とも決まってない地域だ。アフリカ連合においても、国連においても、日本政府にもこの認識に相違は見られない。しかし、不自然な表現、不正確な記述は日本国内で官民問わず後を絶たない。
西サハラの沿岸では多くのタコがあがる。このタコは“モロッコ製冷凍食品”と印字された箱に詰められて輸出され、日本ではモロッコ産のタコとして流通し続けている。リン鉱石も同様だ。西サハラ住民の了解なき西サハラの資源の採取は国連総会決議に反する行為だが、依然、日本では西サハラ産品の消費がやめられる気配はない。

今年の第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が開催された横浜市は、7〜8月を「アフリカ月間」とし各地で企画展示や連携イベントを開催。外務省が「TICAD9パートナー事業」として認定した事業やイベントは年末まで続く。TICAD9の展示会場では約260の出展ブースが並んでいた。横浜・東京各地とTICAD9をあわせ282の展示を見た。
◆西サハラをモロッコ領と表記する日本企業

ほとんどの展示では国境線のないイメージ図か国境線だけを記した地図が用いられていたが、TICAD9出展ブースに見られた東京海上日動火災、豊田通商、八千代エンジニアリング、ヤンマー、横河電機の巨大パネルでは、西サハラをモロッコ領としていた。
豊田通商の広報担当者になぜこの展示では西サハラをモロッコ領とするのかを聞くと、「西サハラというのはどこでしょうか」と聞き返された。ここに国境線がなければ正確ではないのですと、短く説明をした。「私どもはこれで問題ないものと思っております」とのことだった。




これらの地図は「弊社は、西サハラはモロッコ領であるとの立場をとっております」との強いメッセージ性を持つことになる。パレスチナをイスラエル領とする地図を用いることと変わりはない。

TICAD9での小松製作所のパネル展示では、西サハラ・モロッコ間の国境線に重なるように他の線が書かれていた。西サハラはモロッコ領だともそうではないとも受け取ることができる。これは意図しないと描けない。
このような地図はJICAに多数見られる。JICAとは国際協力機構のこと。日本のODA(政府開発援助)実行のかなりの部分をJICAが担ってきた。
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