◆ 西サハラをないものとするJICAの破廉恥な地図

東京・市ヶ谷のJICA地球ひろばの「特別展示 TICAD9とアフリカ」(2025年7月30日撮影)

酷暑が始まった7月、東京・市ヶ谷の急坂を登り、JICA地球ひろばで開催中の「特別展示TICAD9とアフリカ」を訪ねた。展示の内容は「TICAD9とJICA」とするほうが正確だろう。アフリカ各国の様々な援助や開発にJICAが多数関わってきたことがよくわかる内容だった。

 

JICAの地図には、西サハラ・モロッコ間の国境線がない。

展示スペースに置かれたJICA活動拠点を示す大判パネルでは、西サハラ・モロッコ間の国境線を隠すように長方形が配置されている。このパネルだけではない。手に取ったあらゆる配布資料においても同様の手法がとられていた。小松製作所の展示もJICAの制作物も、レイアウト上そうせざるを得なかったと受け止めるのは難しい。

国際問題に詳しい何人かにJICA作成の地図を見せた。ある研究者は「かなり破廉恥な地図」と呆れ、国連関係者は「怖っ。鳥肌が立ちました」と驚いていた。

西サハラ・モロッコ間の国境線が不自然に隠されたJICAのパネル展示(2025年7月30日撮影)
西サハラ・モロッコ間の国境線が不自然に隠されたJICAのパネル展示(2025年7月30日撮影)

 

◆不可視化を促す力はなにか

右下に「出所:外務省」と記された、経産省のプレゼンで使われたものと同じ配布資料(2025年7月31日撮影)

7月31日に横浜で開催された「アフリカビジネスセミナー 環境配慮型ビジネスの新潮流」では、経済産業省通商政策局アフリカ室からのプレゼンがあった。スライドに使われた地図は西サハラをモロッコ領とするものだ。右端に小さい記述を見つけた。「出所:外務省」と記されている。

 

TICAD9関連企画展示を行う11の横浜市立図書館を訪ねた。各図書館に展示されるパネルと書籍のすべてで西サハラは正確に記されている。NGO団体の出展や各種販促展示にも不自然な地図はなかった。私が見た限り、「破廉恥な地図」があったのは大企業の巨大展示物と、JICA、外務省の制作物だけだ。

西サハラの存在が不都合そうなのは地図だけではない。モロッコによる西サハラ軍事占領の追認につながる詭弁も、あちこちにみられる。(続く)

◆西サハラ問題とは

サハラ・アラブ民主共和国(SADR)は、アフリカ最後の植民地と呼ばれる西サハラの人々が建国した国だ。
スペインの植民地だった西サハラには、サハラーウィと呼ばれる、モロッコ人とは異なる人々が暮らしてきた。サハラーウィは独立解放を求めるポリサリオ戦線を1973年に結成。1976年にはSADRの樹立を宣言する。一方、1975年以降モロッコは西サハラへ軍事侵攻して壁を築き、この地域の8割を占領した。1991年、西サハラの帰属は住民投票をもって決めるとする国連和平案をポリサリオ戦線とモロッコ双方が受け入れ停戦に至ったが、現在も住民投票実施は実現していない。
モロッコによる軍事侵攻を逃れたサハラーウィの一部は難民となり、アルジェリア西部のチンドゥーフに難民キャンプが建設された。以来、このキャンプには今も18万を超えるサハラーウィが暮らしている。

西サハラ全図(筆者作成)

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