
ウクライナ東部、ドネツク州ポクロウシク(ポクロフスク)。兵員と物資輸送の拠点となってきたこの町をめぐって、ロシア軍とウクライナ軍の激しい攻防が続く。その戦闘に自衛隊車両が投入されている。
第157独立機械化旅団には、1/2トントラック(三菱パジェロの自衛隊仕様)が3台配置されていた。日本がウクライナ支援で送った自衛隊車両は、実際の現場でどう使われているのか。(報告:玉本英子・アジアプレス)
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【動画】 ウクライナの前線で使われる自衛隊車両 (撮影:アジアプレス 8分30秒)
旅団で1/2トントラックの1台を使う迫撃砲部隊では、120ミリ迫撃砲と砲弾を毎日、3か所の戦闘位置まで運んでいるという。車両は、遠隔操縦の無線式ドローンの自爆攻撃に対処するため、無線妨害装置(ジャマー)を取り付けていた。だが、ロシア軍が大規模に投入し始めた光ファイバー有線式ドローンにはジャマーが効かず、部隊は苦境に直面。ドローンを振り切るため、荒れ地や耕作地、金属片が散らばる道路を全速力で走るため、車輪の損傷も著しい。
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◆「重み」を背負ってウクライナに渡った自衛隊車両
2022年の侵攻当初、「国際法違反の侵略を受けるウクライナへの殺傷能力のない装備品輸出」として自衛隊のヘルメット、防弾チョッキが送られた。
2023年5月には、G7広島サミットでのゼレンスキー大統領の来日に際し、岸田首相(当時)が自衛隊車両を100台規模で提供することを伝え、防衛省で引き渡し式典が行なわれた。その後、政府は防衛装備品移転3原則の運用指針を改定し、輸出できる装備品・武器の対象を拡大。安全保障政策の転換点の一つともなった。

ウクライナへの自衛隊車両支援は、「力による現状変更を許さない」(岸田首相)とする日本の姿勢を国際社会に示す意図があっただろうし、対ロシアで西側欧米諸国と足並みをそろえ、現行法の枠内で自衛隊がどう支援で関われるか知恵を絞ったのだろう。
将来的には防衛装備品移転3原則をさらに改定して、装備品・武器の輸出の拡大を見据える政府や政治家、防衛産業の思惑もあるだろう。装備品移転3原則については、国会の関与がないまま、今後も閣議決定や安全保障委員会の運用指針見直しだけで変えられていくことへの懸念もある。
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戦闘地域で使われる自衛隊車両の供与は「軍事」と「政治」の領域にかかわるゆえ、市民への人道支援とは別のベクトルになってしまう。様々な「重み」を背負った形でウクライナに渡った自衛隊車両。前線でスぺアパーツの入手に苦しむ兵士たちの姿、故障して動かなくなった車両を見ながら、深く考え込んでしまった。
◆ロシア軍参加の中国人兵士拘束した第157独立機械化旅団
自衛隊車両3台が配置されたウクライナ軍・第157独立機械化旅団(157 ОМБр)は、2024年に編成された新しい旅団。150系列の番号が付く旅団は、いずれも戦時招集の動員兵の構成比が高い新編成の部隊である。動員兵については、その練度や士気についての課題も指摘されてきたなか、模索が続く。
第157旅団は、現在、ポクロウシクの東方戦域でロシア軍と熾烈な攻防戦を戦っている。
今年4月、ロシア軍に参加した複数の中国人兵士が捕虜として拘束されたことが報じられた。この中国人兵士の一部を戦闘で拘束したのは、この第157旅団である。中国人兵士は、抵抗することなく投降したという。
拘束されたのは、江西省出身Zhang Renbo(張仁波・1998年生まれ)とされる。ウクライナ保安庁(SBU)は尋問ののち、別の部隊が拘束した中国人兵士(Wang Guangjun王光軍)とともにキーウで記者会見を開いた。

第157旅団が拘束した張仁波は、元消防士で、旅行者としてロシアに入国。ネット広告でロシア軍に入れば200万ルーブル(約350万円)の報酬が支給されると知り、エージェントを通して入隊契約。ドネツク州の前線に送られ、交戦地帯でドローン攻撃から逃れようとしたところを拘束されたとしている。
ゼレンスキー大統領は、現在、ロシア軍に参加した中国人155人がウクライナ領内で戦っているが、その数はさらに多い可能性があるとしている。これに対し中国側は「根拠がない」とした。
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