◆金欠の国に代わりトンチュが輸送業に介入
大きな問題なのは物資の輸送、すなわち「車両と燃料だ」と、取材協力者のA氏は言う。
「咸興(ハムフン)、清津(チョンジン)などの大都市では、以前の市場に劣らないほど国営商店に商品が増え、卸売りも可能だ。だが、それも鉄道駅の近くに限った話で、遠方では輸送手段がなく商品が少ない」
A氏は、結局のところトンチュが物流を担っていると証言する。
「聞こえはいいが、(国家に)資金がないため、商業管理所の名義でトンチュたちが全部やっている。トンチュが購入した車両を商業管理所に登録し、物資の運搬や小売品の配達まで任されている。
工場で生産した商品は、商業管理所が取りまとめて国営商店に供給するのだが、輸送手段がないので、トンチュが国家機関に入り込んで(代わりに運送を担うことで、所属機関から)労賃(月給)をもらいながら(運送による)収入も得ている」
また、A氏は他の事例について、こうも述べる。
「〇〇市の商業管理所が清津から仕入れた水産物を国営商店で安く販売した。だが実際には、(商業管理所に)資金がなくて、商業管理所の名義ではあるが、トンチュの資金で仕入れていた。名義は商業管理所だが、実際はトンチュが儲けている」
◆再び台頭するトンチュ
両江道(リャンガンド)の取材協力者たちも、こうした新興トンチュの事例を伝えている。6月末、両江道の複数の協力者は次のように述べた。
「昔はトンチュがジャンマダンを通じて商品を供給していたが、今は商業管理所の名を使って、トンチュが水産物や農村から物資を受け取り、国営商店で卸売り、小売りをすることもある」
「(国が)個人間の取引を取り締まっているため、トンチュたちは商業管理所の職員の身分を得て取り締まりを逃れている。国営商店の責任者もトンチュで、自分の家族や親戚を販売員として配置し利益を上げている。(輸入品を販売する)外貨商店や委託買い取り商店も、すべてトンチュが運営していると考えてよい」
国家流通機関の名称を借りて、または国家機関に所属して金儲けをするのが、新しいトンチュのやり方だ。具体的にどのような基準と方式で国家の事業に投資し、利潤を分配しているのか、詳細はまだよくわからない。
ただ現時点で指摘できるのは、個人の経済活動を締め上げ、代わりに国家が流通業を掌握しようとする新しい政策に対し、トンチュらはそのシステムの中に入り込んで協力することで利益を得ようとしていることだ。(続く 4 >>)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている
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