(参考写真)平壌市中心部の牡丹峰区域で携帯電話を使う男性。身なりや使う物から見て、トンチュではないだろうか? 2011年6月ク・グァンホ撮影(アジアプレス)

新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、北朝鮮は従来の市場中心の流通構造を国家管理に全面的に再編しつつある。この過程で「トンチュ」(金主の意)は大挙して没落したのだが、最近、こともあろうに国家流通網に介入して利益を得る新たなトンチュ勢力が台頭している。市場抜きでどのようにして金を稼いでいるのか。 (チョン・ソンジュン/カン・ジウォン

<北朝鮮特集>新興成金「トンチュ」の栄枯盛衰(1) 市場を急拡大させたトンチュ、その没落の序幕とは

◆流通システムの大転換

1990年代半ば、北朝鮮では計画経済がほぼ崩壊した。生産麻痺に伴い中国産品が一気に流入すると、国家の統制を外れた流通網が発達した。この過程でトンチュらが物資流通の主導権を握ることになった。2012年に発足した金正恩政権は、いったん市場と共存する道を選んだ。

2020年、コロナパンデミックで国境が封鎖され、地域間移動が制限されると、市場中心の流通網は大きな打撃を受けた。これは貿易、輸送、卸売など、主に流通業で大金を稼いでいたトンチュを窒息寸前の状況に追い込んだ。

金正恩政権はこの時期、トンチュ弾圧政策と併せて、国営商店の「国家唯一価格制(定価制)」を実施、鉄道輸送の強化を進め、鉄道駅の近くに物資保管倉庫を建設するなど、国家流通網の整備に向けて準備を進めた。現時点で国家の流通網の掌握は、相当程度進んだと言ってよいだろう。

咸鏡北道(ハムギョンプクド)に居住するアジアプレスの取材協力者A氏は6月、次のように報告してきた。

「今年に入って市、道の商業管理所が鉄道を利用して水産物、工業品などの他地域の物資を輸送し、国営商店を通じて販売している。これまで(実質的に個人の)運送業者が担っていた役割を、今は国家が担っている」

◆国家独占流通とは何かを理解するために

金正恩政権が目指す「流通の国家独占」を理解するために、過去の市場中心の流通システムと比較してみよう。

〇製品輸入→国産へ
1990年代後半から、生活必需品や服、靴、食料品に至るまで、住民生活に必要なもののほとんどは中国からの輸入に依存していた。金正恩政権はそれを国産品に置き換える措置を強力に進めた。貿易会社から輸出入の裁量を失くし、政権が「国家唯一貿易」と呼ぶ強力な国主導の貿易政策に転換した。

〇卸売業のトンチュ掌握→国の商業管理所に置き換え
各地域への品物の卸売と輸送を担って利益を得ていたトンチュを排除し、国家所属の商業管理所が全面的に担うようにした。

〇運送業者→国家主導の運送方式:
トンチュが主にトラックで担っていた物資輸送を、国家が鉄道を中心に行う方式に変えた。

〇ジャンマダン(市場)→国営商店
以前はジャンマダンに行けば消費物資は何でも買うことができたが、現在では売買の中心は国営商店である。ジャンマダンは存在するが、取り扱い品目は減少し、国営商店の補助的な役割に限定されている。

北朝鮮への搬出前に税関手続きを待つコンテナ車両。2024年10月、吉林省・圏河税関にて撮影(アジアプレス)

◆市場勢力を排除して国家か統括

現行の流通体系で特に重要なのは、国家が全体を統括しているという点である。国家機関である商業管理所(商業局)は、流通の全過程を管理し、以下の役割を担っている。

1.生産品の引き受け: 国内で生産された物品および一部の輸入品の確保

2.地域別配分: 需要と供給を考慮した地域ごとの物品割り当て

3.輸送連携: 鉄道を中心とした国主導の輸送4.物資管理:流通過程での物資損失防止および品質管理

4.販売監督: 国営商店を通じて最終消費者に至る販売過程の統括

※商業管理所は各道、市、郡人民委員会(政府)所属で、地域流通を組織、統制、管理する実務機関

この新しい国家中心の新しい流通の仕組みはうまく機能するだろうか? 協力者たちは、既に現実的な限界が生じていると話す。

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