農場幹部が子どもを農村から離脱させて都市に送る動きが広がり、北朝鮮当局が集中的に調査し、取り締まっている。北朝鮮では農民家庭に生まれたら、子々孫々までが一生農場員として過ごさなければならない「身分制」が存在する。農場幹部が、進学や病気を口実に、子どもをなんとか都市に職場配置されるよう不正に工作する事例が次々と摘発されているという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)取材協力者が9月上旬に伝えてきた。(洪麻里/カン・ジウォン)

◆大学進学後にそのまま都市の職場へ
取材協力者は、大がかりな調査の発端を次のように話す。
「ある農場で、幹部の子どもが大学に進学したことをきっかけにそのまま都市の貿易会社に入ったのだが、それを誰かが咸鏡北道の労働党組織に申告して集中調査が始まった」
続けて、調査の詳細をこう説明した。
「咸鏡北道の党組織から派遣されたグルパ(摘発チーム)が、農村一帯を調査している。特に専門学校に進学した後、そのまま都市の職場に入ったケースを多く摘発しているそうだ。中には、関節炎や脊椎障害などの偽の診断書を作って、(仕事を免除される)社会保障対象を装って都市に出た人もいるという」
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◆厳格な階級社会 農民の子は代々農民
北朝鮮は厳然とした階級社会だ。特に農場員は、もっとも貧しく将来の可能性が閉じられた最下層の職業だと蔑まれてきた。農民家庭に生まれると、子々孫々までが一生「農民身分」を離脱することができず、農村で過ごさなければならない。そのため通常、専門学校や大学を卒業したとしても、原則として農民身分であれば都市の職場に配置されることは許されず、故郷の農村に戻らねばねらない。
しかし、何とかして子どもを都市住民に「身分替え」させたいと考える農場の幹部たちは、職場配置を決定する人民委員会(地方政府)の労働局の役人に賄賂を使うなどして、都市の職場で働けるように不正を働く事例が大量に摘発されているということだ。
協力者は、「人民委員会労働局でも、農村に地縁のある都市住民を対象に調査をしている。今回の調査で農場幹部のクビがたくさん飛ぶだろう」と話す。
◆金のない者は農村へ「差が深刻化」
一方で、少数だが、逆に農村への転籍を望む住民も存在する。都市の最貧層の人たちだ。コロナ・パンデミック以降、金正恩政権は商行為など個人の経済活動が厳しく制限した。そのため、現金収入を失って困窮した都市住民が農場への転籍を志願するケースが増えているのだ。
協力者はこう話す。
「都市で何も持たない人たちは農村で生活しようとし、農村の持てる人たちは都市に出て行こうとする。貧富の差がどんどん深刻化している」
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
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