◆死んでも政治的生命は永遠だという理論教育
北朝鮮の英雄主義プロパガンダがさらに危険なのは、感情的訴えを超えて「社会政治的生命体論」という理論体系で学生たちの理性まで攻略しようとする点だ。
この理論は、人間の生命を「肉体的生命」と「政治的生命」に区分し、首領に忠誠を誓い犠牲になった個人は、肉体的生命が終わっても集団の記憶の中で永遠に生きる「政治的生命」を得ると主張する。永遠の命に対する人間の根源的欲望を巧みに利用し、個人の犠牲を理論的に正当化しようとする。
◆誰もが知る「9歳で日帝の犠牲になったキム・クムスン」譚
北朝鮮が代表的な「英雄童子」として掲げるのがキム・クムスンだ。抗日武装闘争の時期、遊撃隊の児童団員だった9歳のキム・クムスンは、連絡任務を遂行中、日本の警察に逮捕されたが、最後まで秘密を守り犠牲になった。
この逸話が事実かどうかは別として、北朝鮮では非常に有名な話だ。キム・クムスンの肉体的生命は10年も持たなかったが、政治的生命は永遠だと、当局は宣伝している。
このような教育は、低学年から高学年に至る子どもたちの水準に合わせて、多様な方法と形式で宣伝教育に体系的に組まれている。
荒唐無稽なまやかしの教義のように思えるかもしれないが、小学校から同じ内容を何百、何千回も繰り返し聞いて育つ北朝鮮の子どもにとっては、決して笑い飛ばせる内容ではない。

◆捕虜の北兵士に洗脳の影 「手榴弾があったら自爆していた」
韓国情報当局の推算によると、ロシアに派兵され北朝鮮軍1万5000人のうち死亡者数は約2000人にのぼるという。凄まじい数の若者が金正恩政権の参戦決定の犠牲になったわけだ。
今年1月、ウクライナ軍に生け捕りされ捕虜となった2人の若い北朝鮮兵士のインタビューが世界中に公開された。1人が「手榴弾があったら自爆しただろう」答えたのを見て、私は彼らの選択に垂れ込める北朝鮮教育の暗い影を感じた。幼いころ「英雄になりたい」と歌った北朝鮮の子供たちが、大人になった後に英雄になる方法は、「金正恩万歳」を唱えながら死ぬことだけだったのだ。
次回は、北朝鮮で軍生活を経験した脱北民の証言を通じて、英雄主義がどのように北朝鮮兵士の精神を掌握し、彼らの行動を左右するのか分析し、北朝鮮軍内に蔓延した英雄主義の危険性について考察する。(続く)






















