ロシア派遣兵士を称える「海外軍事作戦戦闘偉勲記念館」の起工式で、派兵された兵士とされる若者を労う金正恩氏。2025年10月24日付朝鮮中央通信より引用

8月22日、朝鮮中央テレビはロシアに派兵されて戦死した若い兵士を英雄として取り上げられた。その多くは、捕虜になる代わりに手榴弾で自爆を選んだ若者たちだった。北朝鮮に住む取材協力者たちは、洗脳の悲しい犠牲者である彼らの事例が、既に北朝鮮国内で新たな英雄主義を鼓舞する教育資料として使われていると報告する。危険な形で進められているこの洗脳教育に対して、国際社会ができることは何だろうか。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン

<北朝鮮特集>若者の血で染まった「ロシア派兵英雄」 (1) プロパガンダによって作られた「新英雄」神話

◆ロシア派兵の「自爆英雄」は大きな洗脳効果生む

北朝鮮軍の精鋭部隊「暴風軍団」出身の脱北民A氏は、金正恩政権がもてはやす「ロシア派兵英雄」の宣伝価値についてこう評価する。

「英雄主義を強調する金正恩政権にとって、その宣伝価値は非常に大きいだろう。これまで抗日闘争や朝鮮戦争時代の英雄たちの事例を使って兵士を教育、宣伝してきた。しかし、抗日闘争はほぼ100年前の、朝鮮戦争は70年以上前のことだ。どれだけ感情的な訴える力かあるだろうか。しかし今回のロシア派兵の英雄は、現実の戦争、現在の英雄だ。リアルな事例であるだけに、効果も大きいだろう」

取材協力者たちの報告によると、実際に当局が戦死者を英雄として作り上げる作業は、8月から始まっていた。

国境警戒勤務中の北朝鮮兵士。20代初盤にように見える。2025年9月、両江道恵山市を中国側から撮影(アジアプレス)

◆国内で早くも英雄主義宣伝が始まっていた

9月末、北部に住む取材協力者は次のように報告してきた。

「英雄を宣伝する記録映画が頻繁に放送され、学習会や講演会でも『祖国のために犠牲になった青年たちで、歴史に長く残る英雄たちだ』として、大々的に紹介、宣伝している」

また、主に家庭の主婦を組織する女性同盟の学習の雰囲気について、こう伝える。
「9月27日に開かれた女性同盟の学習会でも記録映画が上映された。皆女性だから、息子や子どもを想像して涙を流すのです。感動して震える人もいた。元帥(金正恩)が涙を流す姿を見て、それにもらい泣く人もいた」

一般住民の反応も、当局の意図に合致しているようだ。
「戦死者について批判や不満を口にすることなんてあり得ません。だから周囲からほとんど聞こえてこない。逆に、『それでも祖国のために死んで、永遠に記憶されるのだからよかった』という声もある。学校では、英雄から学ぶキャンペーンが行われている」

こうした複数の報告は、ロシア派兵の戦死者たちが、すでに北朝鮮社会全体で新たな英雄物語として定着していることを示している。過去に学校で始まった英雄主義教育が軍隊の中で強化され、戦死者を称えるために再び社会全体へと拡散される、そんな循環構造が完成しつつあるのだ。

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