手榴弾で自爆した戦死者の名を紹介する朝鮮中央テレビの番組。19歳のウ・ウィヒョクと20歳のユン・ジョンヒョクとある。同放送が2025年8月22日に放映した番組より

◆洗脳の解毒剤は情報を入れること

北朝鮮の英雄主義洗脳システムがこれほど強力な理由は、情報の独占にある。唯一の物語、唯一の価値観、唯一の英雄イメージだけを押し付けられた住民は、他に想像が及ぶ選択肢があるということすら知らない。

だが、外部の情報が入れば入るほど、このシステムの虚構は明らかになる。さまざまな英雄の姿、さまざまな価値観、さまざまな生き方に触れることで、北朝鮮の住民はようやく選択の機会を持てるようになる。外部の情報を国内に伝えるUSBメモリ一つ、ラジオ一台が、70年にわたって積み重ねられた洗脳の壁を打ち破ることができる理由はここにある。

金正恩政権がずっと情報遮断に必死なのも、外部の情報こそが当局が掲げる英雄の歪んだ虚像を映す鏡であり、さらには統治基盤を揺るがす最も危険な敵であることをよく知っているからだ。

A氏が強調していた「他の選択肢の不在」は、情報遮断が生んだ結果だ。北朝鮮の兵士たちが自爆を選ぶのは、勇気や忠誠心のためだけではなく、他の可能性を想像できないほど徹底的に統制された環境の中で生きてきたからである。

北朝鮮軍の兵営内の掲示板。「戦争準備に明日はない!」というスローガンが見える。2025年9月、両江道恵山市を中国側から撮影(アジアプレス)

結局、北朝鮮住民の真の解放は、情報の自由から始まるだろう。プーチンのためにロシアで命を落とした若者たちの悲劇を繰り返させないためには、彼らに別の生き方を想像できる情報が届かなければならない。それこそが、70年間続いてきた洗脳の悪循環を断ち切る唯一の道なのだ。(了)

 

 

 

★新着記事