◆除去現場で相次ぐ重大事故
3月下旬には東京都千代田区神田小川町の解体現場において、やはり石綿除去作業中に一酸化炭素中毒とみられる症状で16人が搬送された。うち1人は一時意識不明になったという。報道によれば、5階で石綿除去をしており、4階で発電機2台を稼働させていた。
情報公開請求により千代田区から入手した石綿除去の届け出資料によれば、3階階段に更衣室やエアシャワーなどのセキュリティゾーンを配置し、4階の階段も隔離のうえ、下請けの石綿除去業者が5階のけい酸カルシウム板第2種の除去を計画していた。
元請けの東京ビルドに事故原因を尋ねると、同社を担当する弁護士から連絡があり、「まだ労基署が入られていて、現状お答えできることがない」「現場の管理状況等、事実確認しきっていないので、いま答えられることはない」などと明確な回答は得られなかった。
一酸化炭素中毒は人命に直結するため、基本的に監督署で捜査対象になるという。所轄の中央労働基準監督署にすでに送検されているのか尋ねたところ、「個別の事案については答えられない」(監督課)という。通常は送検されれば報道発表される。少なくとも11月7日現在発表されていないと認めており、この事故については送検されていないとみられる。
ある監督官は、一酸化炭素中毒をめぐる捜査では換気が不十分であった裏付けとして、密閉空間がどこまで作られていたかや、体積の確認など細かな立証が必要となり、現場が大きいほど難しくなる傾向があると話す。そうした事情で東京・千代田区の事案は難航しているのかもしれない。
石綿作業のように特別講習の受講や石綿作業主任者の配置などが義務づけられているわけではないが、換気の悪い場所に発電機を置くことの危険性はいわば“業界の常識”として対応されてきた。建設会社などでは入ってすぐのころに口酸っぱく教えられることだという。
それでも事故が相次ぐと、講習の受講や更新講習などを義務づけるべきではないかと思えてくる。
現場の監督官からは「はっきりデータで示せるわけではないが、重大事故が増えているという感触はある」との話をときおり聞く。
前出・堺労働基準監督署で捜査にあたった監督官も一般論として、「近隣への音の問題や広さを誤認される(ことで隔離内に設置してしまう)ケースは多々ある」と明かし、こう強調した。
「今回の件はあと少し発見が遅れれば全員亡くなっていたこともあり得ます。一酸化炭素中毒は生命の危険に直結するので若い人も危険の認識を持っていただきたい。一酸化炭素中毒もですけど、石綿ばく露による被害は数十年後になって発症したらすぐ亡くなってしまうきわめて重篤なものですので、きちんと注意して対策を講じていただきたい」
今回の書類送検が警鐘となるか。






















