◆情報開示に後ろ向き

2006年に秩父鉄道の発表資料にあった主幹制御器(左)と主幹制御器のカバーを開けたようす(右)。カバー内側の茶色い部分が石綿含有塗料

じつは今回と同様の石綿含有中古品の販売は鉄道各社で繰り返されている。

比較的新しいものではたとえば2018年にJR貨物が同社やグループ会社(最大16社)で過去に販売した中古コンテナの床下面などに基準(重量の0.1%)超の「ごく微量の石綿」を含有していることが判明した事案だ。

同社発表では、コンテナの写真や図面、石綿使用箇所が明記されていた。

もう少しさかのぼると、2012年にJR西日本は2008年以降販売された中古の車体番号が記載された鉄製プレート127枚に基準超の石綿含有塗料を検出したと発表。これも写真などを合わせて開示している。一般向け販売で、今回の事案とほぼ同じ構図である。

2006年にはJR西日本が2000年以降にイベントで販売した中古の車体番号プレート161枚に基準超の石綿含有塗料が使用されていたと公表。同年は同様事例が相次ぎ、京阪と南海、阪急、阪神の関西私鉄大手4社と神戸電鉄、同様の鉄製プレート計304枚や運転台の「主幹制御器」計16台に石綿含有塗料を使用と発表。埼玉の秩父鉄道も主幹制御器1台のカバー内側から石綿含有が判明したと写真付きで公表している。

これが当然の対応であろう。筆者の知る限り、石綿含有品の内容や写真を公表しなかったのは初めてではないか。今回のJR九州による発表から、同社は情報開示にかなり後ろ向きと評価せざるを得ない。

もともと2006年9月に基準(重量の0.1%)超の石綿を含む製品が原則使用禁止されたにもかかわらず、2007年2月、JR西日本でガスケットやパッキン12品目計893個で新たに石綿を使用する労働安全衛生法(安衛法)違反が判明。同省が鉄道事業者(すでに判明のJR西日本除く)に対して調査したところ、同5月にJR各社(JR四国除く)を含む32鉄道事業者でガスケットなど1万1088個におよぶ違法な石綿使用が見つかった。同省は法令遵守の徹底と再発防止対策について万全の措置を講じるよう指導している。

ところがその後も中古品の違法販売が散発。2012年のJR西日本の法違反を受けて、2013年には同省はパンフレットを作成して鉄道各社に配布。2016年のJR貨物による法違反が明らかになり、同12月、改めて点検漏れがないよう管理規程などの整備や再発防止を求めて通知を出している。

それにしても再三の指導にもかかわらず、なぜまた今回繰り返されたのか。

JR九州は「アスベストが含有されている・されていた部品につきましてはリスト化されており、部品販売につきましてはリスト外の物を社内文書にて指定して販売していました。しかしながら、今回は指定物に付属していたものであり、付属していないものを過去に販売した経緯もあるため販売前の検閲や協議会をすり抜けてしまったためです」(広報部)と一定の管理はあったものの、付属品のチェックが不十分だったことを明かした。

では、どのように再発防止に取り組むのか。

同社は「改めて販売に携わる社員にアスベストやPCBなどについての教育を行うとともに、リストの更新と販売前の検閲及び協議会でチェック項目を設けて、危険物含有について不明なものは図面や仕様書を確認して再発防止に努めてまいります」(同)と回答した。

ちなみにJR九州の今回の発表資料は同社ウェブサイトに掲載されていない。同社に聞くと、記者クラブへの投げ込みによる発表のみだったと認めた。

「マスコミに広く対応させていただくということでウェブサイトに掲載していない」(同)というのだが、記者クラブのみに入口を狭めており「広く対応」とは評価しがたい。同社ウェブサイトのニュースリリースには今回のようなマイナス情報が一切含まれていないので、都合の悪い情報は掲載しない方針なのだろう。

なぜ掲載しないのかと尋ねたところ、「ご指摘も受けており、(掲載の)検討はしている」(同)という。しかしその後(11月18日午後7時現在)も同社ウェブサイトへの掲載はないままだ。

延々と同じことが繰り返される現状は、結局“性善説”で指導だけしていても守られないということだ。あげく、何に石綿を含むのかすら、ろくに明らかにしない発表に行き着いた。

重度の健康障害を生じる有害物質の製造禁止を定めた安衛法第55条違反は、同法でもっとも重い3年以下の懲役または300万円以下の罰金である(両罰あり)。そもそも罰則が緩すぎるため、法改正して厳罰化すべきということをひとまず置いておくにしても、最初に指導してからすでに20年近い以上、もはや指導だけで済まさず、きちんと送検、起訴までするのが当然ではないか。

 

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