中国の高級電気自動車メーカーBYDの車両の後ろにはトヨタの車も見える。2025年9月、恵山市を中国側から撮影(アジアプレス)

今年9月、アジアプレスの取材チームは中国吉林省長白県で、これまで見たことのない光景を目撃した。鴨緑江の対岸の北朝鮮両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市内のいたる所に、百数十台の高級乗用車や大型トラック、重機など中国製中古車両が整然と駐車していたのだ。ナンバープレートがない密輸車両だ。中国から大量の車両が北朝鮮に渡っている背景は何か。また、車両の大規模密輸は、一体どのような構造と方法で成り立っているのか。朝中両側の取材協力者と共に調査した。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン

◆BYDからトヨタまで…肉眼だけでも百数十台を確認

あちこちの空き地に大量に並べられた車両の中には、中国を代表する電気自動車ブランドのBYDや日本のトヨタなどの高級乗用車に加え、大型トラックや建設重機も多数あった。全てナンバープレートが外されている。

恵山市に住む取材協力者は「対外経済省とジェギョンという貿易会社が密輸した中国製中古車で間違いない」と証言した。

朝中間の密輸に精通する吉林省の貿易関係者は、9月中旬に次のように伝えてきた。

「車両の密輸は8月以降、規模が大きくなっている。9月上旬にはトラクターも数十台渡ったそうだ。乗用車はBYD車の中古が取引されている。車両と共に装備や部品(サスペンション、ホイールなど)も密輸されている」

学校の運動場に数十台の密輸車両がびっしりと駐車している。2025年9月、恵山市を中国側から撮影(アジアプレス)

◆「国家密輸」は制裁を迂回する北朝鮮の生存戦略

車両密輸の構造を理解するには、まず「国家密輸」という皮肉な概念を知る必要がある。

継続的な核実験とミサイル発射に対して国連と国際社会から強力な制裁が追加された2017年以降、北朝鮮政府は制裁を迂回し国家運営に必要な物資を確保するため、朝中国境を通じた密貿易を進めてきた。いわゆる「国家密輸」である。

金正恩政権の主導のもと、中国の民間密輸業者の協力、そして中国当局の黙認のもとで進められてきた「国家密輸」は、朝中関係の動向を察知する指標の一つでもある。
9月3日の金正恩氏の訪中を契機に、朝中国境は再び国家密輸で活気づいている。その中心が車両密輸である。

◆車両密輸の中心地、恵山

国家密輸の中心地は、朝鮮半島西側の海上及び中国吉林省長白県と向かい合う恵山である。車両密輸は大部分が長白-恵山間で行われる。朝中間の自然境界である鴨緑江の上流に位置し、川幅が狭いという地理的条件がそれを可能にしてきた。

冬には凍結した川面を渡河するが、通常は鴨緑江の水位が低い地点を選び、タイヤが半分ほど水に浸かった状態で渡る。

協力者が10月中旬に伝えてきた報告によると、密輸の具体的な場所は、恵山市からやや下流に位置する金亨稷(キムヒョンジク)郡と古邑(コウプ)付近だという。

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