秋の収穫のために集められた女性たちの前で本を持つ女性が一生懸命なにかを説明している。近郊から動員された女性同盟員だろう。2023年9月下旬、平安北道朔州群を中国側から撮影(アジアプレス)

金正恩政権が住民洗脳作業を強化している。労働党の方針を住民に伝達、宣伝する末端の扇動員に、労賃(月給)を支給し始めたのに加え、地位とボーナスなど各種インセンティブを付与して宣伝扇動部の役割を強めている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)と両江道(リャンガンド)の内部取材協力者の報告を基に、金正恩政権の狙いを探る。(チョン・ソンジュン/カン・ジウォン

◆扇動員はどんな役割をする?

2019年3月に開かれた第2次全国党初級宣伝幹部大会で金正恩氏は、「群衆がいる所に宣伝員、扇動員を置いて、その役割を高め、1人が10人、10人が100人を教養して導くことは、我が党固有の大衆教養体系、群衆工作方法」だと明言した。

北朝鮮において扇動員とは、党の声を住民に直接伝達する宣伝扇動事業の最末端実務者だ。彼らは政策の伝達だけでなく、住民世論を収集する役割も遂行する。職場に配置された一労働者でもあり、働きながら扇動業務を担っている。

これまで、扇動員の地位はそれほど高くなかった。仕事内容は、年に何度か読報をしたり、古くなった宣伝スローガンを換えたりする程度だった。名誉職とされ無給だったため、主に若い女性が担い、住民間では下級党書記の使い走り程度に思われていた。
※読報とは、学校や職場で毎朝の日課を始める前に、労働新聞や党政策の内容を読み聞かせる宣伝、教育方法のこと。

しかし最近、当局が追加手当やインセンティブまで付与するなど待遇が大きく変わったという。

戦死した兵士とされる写真の前で膝をついて英雄メダルをかける金正恩氏。2025年8月21日付朝鮮中央通信から引用

◆月1万ウォンを追加支給、若い女性の代わりに経験者選抜

咸鏡北道の取材協力者A氏は、先月中旬、当局から扇動員の待遇を改善しろという指示が下りてきたと伝える。

「今年1月から宣伝扇動員に労賃(月給)の他に、月1万ウォンの追加手当が支給された。『初級幹部』並みに待遇しろという指示だ。道、市、郡党宣伝部直属で専門講習を受けて任命された人だけが手当をもらえる」

北朝鮮の一般労働者の労賃は月3.5~5万ウォン程度であることを鑑みると、月1万ウォンの追加手当は決して少なくない。労賃3分の1に当たる「固定収入」を職場ではなく国家が保証するということは、実質的な待遇向上に加えて、扇動事業強化という象徴的な意味合いが大きいと言えるだろう。
※朝鮮1万ウォンは、約44円(1月末時点)

両江道恵山(ヘサン)市の協力者B氏はさらに、成果に応じて追加手当まで出していると証言する。

「宣伝扇動が巧みかどうかを労働者に設問調査して評価するそうだ。大衆に認められた扇動員は表彰もし、平壌見学もさせ、ボーナスで物資(パンやタバコ、酒などか)もあげるという。今では扇動員は誰でもいいというわけではなく、経歴のある人たちを選抜するようになった」

こうした変化は、形式的になりがちだった宣伝扇動事業に政府が本腰を入れようとする意図と見られる。

★新着記事