◆「スパイ防止法」が戦争体制の構築と結びつく
また昨年12月16日、参議院議員会館で開かれた「第3回スパイ防止法を考える市民と超党派の議員の勉強会」で、国家秘密法制の問題に詳しい海渡雄一弁護士(秘密保護法対策弁護団共同代表)も、講演「戦争の危機の深まりの中で、スパイ防止法は戦争反対の声を封ずる凶器となる」のなかで、「宮澤・レーン・スパイ冤罪事件」にもふれながら、次のように「スパイ防止法」が戦争体制の構築と結びつく危険性を指摘した。
「戦争は軍備だけで遂行できるものではなく、国民の支持が必要です。そのためにも、戦争に反対する市民がいたら、これをすみやかに排除できるように、市民が相互に監視し、また国家が直接市民を監視できるシステム・仕組みが必要になってきます」

「戦前には、徴兵制度、スパイ防止を標榜するキャンペーン、隣組制度、憲兵・特高に対する密告などにより、戦争に対する疑問の声を上げることは不可能となっていきました」
「いま、顔認証機能付きの街頭監視カメラ、スマホの位置認証、マイナンバーカード、通信傍受対象犯罪の拡大、能動的サイバー防御制度の下でのネット情報の無差別の収集が進められ、市民監視の体制が整備されました」
そして、「スパイ防止法には疑問があるが、反対の声を上げると、政府にマークされるのではないかと不安」という声も聞かれるほどだと述べたうえで、海渡弁護士はこう訴えた。
「監視によって、人を黙らせるこのような動きが始まっています。これに対抗して、地域における、公安警察や自衛隊情報保全隊などの活動に対して、市民の側から調査し、その実態を明らかにしていくことが必要です。戦争体制づくりに地域から抗していくために、公安警察による市民運動に対する情報収集活動そのものが違法であると判示した、名古屋高裁の大垣署事件判決(2024年9月13日)を学びましょう」
◆「大垣警察市民監視違憲訴訟」の勝訴判決
大垣署事件とは「大垣警察市民監視事件」と呼ばれるものだ。岐阜県大垣市での中部電力子会社のシーテック社による巨大風力発電施設の建設計画に対し、地元住民が環境破壊や低周波による健康被害への懸念から勉強会を開いたところ、大垣署は自ら監視・情報収集を始めた。
岐阜県警大垣警察署警備課(公安警察)の警察官らは2013年~14年に、勉強会を開いた反対派住民2人と、発電施設問題とは無関係の脱原発活動や平和運動に関わっていた大垣市民2人の氏名、学歴、職歴、病歴、市民運動歴などの個人情報を密かに収集してシーテック社に提供。計4回、大垣警察署で同社社員らと情報交換・意見交換を重ねていたのだ。
この情報交換・意見交換は警察側から呼びかけたもので、警備課の警察官はシーテック社側に、風力発電施設反対の住民運動について、「大々的な市民運動へと展開すると御社(シーテック社)の事業も進まないことになりかね」ず、そうした展開は「大垣警察署としても回避したい行為」であるなどと述べた。一連の市民監視・情報収集の背景には、市民運動を危険視する公安警察の偏った組織的体質があるとみられる。
その「市民監視」の事実が2014年7月24日、『朝日新聞』のスクープで明らかにされたことから、監視・情報収集の対象とされた前出の4人は、2016年12月21日、岐阜県を相手取って、大垣警察の違法・違憲の情報収集によりプライバシー、個人情報をみだりに収集などされない自由と表現の自由、表現行為人格権を侵害され、精神的苦痛をこうむったとして、国家賠償請求訴訟を岐阜地裁に提訴した。18年1月29日には、岐阜県と国(警察庁)に対し、警察が収集した個人情報の抹消を求める追加提訴もおこなった。「大垣警察市民監視違憲訴訟」と呼ばれる。

2022年2月21日の地裁判決は、警察から企業への個人情報の提供はプライバシー侵害で違法だとして、原告1人あたり55万円の賠償を命じた。しかし、警察による情報収集の違法性は認めず、個人情報の抹消の請求も退けた。原告側は名古屋高裁に控訴した。
2024年9月13日の高裁判決は、警察による情報収集と情報提供の違法性を認め、原告1人あたり110万円の賠償を命じた。個人情報の抹消の請求も認め、岐阜県に情報の抹消を命じた。初めて裁判所が公安警察による個人情報の収集活動を違法と判断した、画期的な原告勝訴判決だった。その後、同年10月2日に岐阜県は上告を断念し、名古屋高裁判決は確定した。
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