yanagi_080615.jpg【記者会見する遊漁船の船長】(台湾SETニュース画面より)

[柳本通彦] 台湾海峡天氣晴朗なれど No62~「開戦」
国会で「一国」の「首相」が、隣の国に対して、「開戦を辞さず」と発言する。おそらく、先進国家ではなかなかありえない「非常時」であろう。

尖閣諸島付近で今月10日未明、台湾の遊漁船「聨合号」が海上保安庁の巡視船と衝突し沈没した事故で、台湾の劉兆玄行政院長は、立法院での質問に答えて、日本との「一戦も辞さず」と回答し物議を醸している。
13日夜、保安庁に拘束されていた船長が解放され、台湾に戻り、記者会見を開いた。
彼の言い分を要約すると、以下のようになる。

…我々は領海十二海里を侵犯していない。何か警告を受けたが、意味がわからないままに、いきなり船をぶつけられた。相手は故意だった。こっちはジグザクに航行はしていない。船が沈んでも一時間も救助してくれなかった。怪我をしたが日本では治療を受けなかった。ひどい扱いを受けた。わけのわからない訊問記録に無理やり署名させられた。あれは嘘だ…

これに対して、台湾の世論は沸騰している。テレビで展開されている主張は以下のようなものである。…自国の領海内で漁船が日本の軍艦に体当たりされ沈没した。
ただではすまされない。日本の蛮行には断固戦うべきだ。今回強い態度に出たから船長も解放されたんだ。尖閣諸島は台湾(中華民国)固有の領土だ。韓国を見習って我々も、もっと強く主張しないと、日本にいつまでもなめられるぞ…

さらにネットでは、日本人観光客を拉致せよ。強盗に説教しても始まらない。「牙には牙」などという不穏な声も上がり、日本人学校は厳戒態勢をしいている。そうした雰囲気に乗せられての先の行政院長(首相)の発言である。

日本はいわば公然と宣戦布告された格好だが、日本のメディアは控えめな報道である。たしかに台湾で展開されているのは無秩序な「罵倒」の嵐でしかなく、非常に取り扱いにくい。
あの微妙な海域に、なにゆえに遊漁船などが深夜にうろうろしていたのか。なにゆえに逃げたのか。尖閣諸島が台湾からどれだけの距離にあるのか。そもそも事件がどこで発生したのか。こうした基本的なことは市民に知らされようとはとしない。海上保安庁と自衛隊の区別もつかない。

そうした人たちとメディアが日本の「蛮行」をただひたすら叫びあげているのが現状。非常に取り扱いにくいのである。しかも二三年前には、取材していた日本の記者が漁民らに袋叩きにあっていたりもする。

台湾の人は「親日的」だったのではないの?という意見もあるが、そもそも一つの国あるいは地域の人たちを指して自ら「親日」などと呼ぶこと自体がまことに失礼なことではないか。
中国を「反日」、台湾を「親日」とことさら区別し、中台あるいは日中の間に溝を築こうとした世論操作が確かにおこなわれた。

しかし実際には、台湾人の日本人観は、愛憎入り混じった非常に複雑怪奇なものである。ひとことで表現できるものではない。しかも、少なくとも日本への対抗心だけは、世界の誰にも負けないだろうと思う。
今回は、その長年の怨念と対抗心に火がつき、ついに「戦争準備」に暴走することになった! その強気の裏には、中国との対話が順調に進み、「母国」が背後にいてくれるという駄々っ子の心理も覗く。
来週には駐日代表を召還し、水曜日には軍艦?を問題海域に派遣するという。いよいよ「一戦?」に乗り出すらしい。  (2008/06月/14)