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国家が情報を隠蔽するとき

11 非公開要請を拒否できなかった国会図書館
問題の『合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料』を非公開にするよう、法務省刑事局長から要請を受けた国会図書館側の担当者、田屋裕之収集書誌部長には、2008年7月31日に話を聞くことができた。

非公開要請があったのは同年5月27日で、対応したのは収集書誌部である。どこからの要請だったかについては、「ある政府機関からとしか言えない」と述べたが、発言のなかで再三、「法務省」という言葉が口をついて出た。
「そもそも秘密の資料で、仮に情報公開法に基づく開示請求があっても開示できない資料だから非公開に、との要請でした」

しかし、情報公開法は行政機関の保有する文書に関する法律で、国会図書館の蔵書は対象にならない。
その点を質すと、国会図書館の「資料利用制限措置等に関する内規」の、「国もしくは地方公共団体の諸機関が発行した資料で、当該機関が非公開にすると公的に決定したものは、利用制限できる」という旨の規定を示して、こう説明した。

「公的な決定として非公開の要請があれば、同じ国家機関としては受け入れざるをえません」
利用制限措置は、収集書誌部や総務部や調査及び立法考査局など7つの部局の長からなる利用制限等申出資料取扱委員会を年に数回開き、プライバシー侵害や人権侵害などに該当すると関係者などから申し出のあった資料について協議して決める。

今回の措置は2008年6月5日の同委員会で協議した。館長への報告を経て、6月11日に館長が正式決定。6月23日に所蔵資料利用検索システムから削除し、利用禁止にした。『実務資料』自体は所蔵し、蔵書目録にも存在する。

この措置を当時知っていたのは、職員908人のうち同委員会の委員とスタッフ、館長、副館長ら、わずか20数人である。今回のように政府機関から「秘密資料だから非公開に」との要請は、ほぼ前例がないという。
『実務資料』が蔵書に登録されたのは1990年3月26日で、古書店からの購入である。同資料が含まれる「検察資料」シリーズは、古書市場で入手できるものも少なくない。検察庁関係者や法務省関係者が退職後、亡くなり、家族が蔵書を処分するときに古書店に売ったりしているのだろう。「検察資料」は各地の大学図書館も研究のために所蔵している。

国会図書館が『実務資料』を古書店から購入したということは、納本制度を通じて法務省から納入されたものではない。つまり、表紙に「秘」と印刷されている同資料が秘文書扱いと知ったうえで収集していたのである。

「私どもは国内刊行の資料は広く網羅的に収集したいので、基本的に、『秘』とあろうとなかろうと、当館が未収集の資料を見つけたら収集することにしています」
国会図書館のホームページには、「国会に図書館が置かれるのはなぜか」という理由がこう説明されている。

「世界のほとんどの国に議会があり、議会のある国のほとんどに規模の大小や機能の広狭はあっても議会図書館が置かれています。その理由は、国会の活動(立法、行政監視)に、立法府自前の、客観的な、資料に基づいた調査と情報が必要だからです」
この国会図書館の存在意義からしても、たとえ行政機関の秘密資料でも古書店から購入するのは、国立国会図書館法でも定められた正当な資料収集である。市民の「知る権利」に応えるためにも当然である。法務省が「国会図書館にあるのはふさわしくない」と独断していいはずがない。
それなのに、なぜ国会図書館は自らの存在意義にかけても非公開要請を拒否できなかったのだろうか。
つづく(文中敬称略)
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