米空軍嘉手納基地沖縄県にある米空軍嘉手納基地(飛行場)。在日米軍基地(施設・区域)は現在、全国に85施設ある。

国家が情報を隠蔽するとき

12 政府の圧力と非公開要請の政治的背景
国会図書館の収集書誌部長、田屋は心苦しげな表情をにじませながら、こう語った。
「悩みはありますね。国会図書館の使命からしても、基本的に利用禁止はしたくないんです。利用制限等申出資料取扱委員会の協議でも、非公開要請を拒否してでも公開し続けるべきではないか、という意見も出ました」
「しかし要請に対して、その資料の内容にまで立ち入ってこちらが反証できるかというと難しいですね。残念ながら、同じ国家機関として公的な手続きには従わざるをえません。また、仮に拒否して行政機関との関係が悪くなると、官庁出版物の国会図書館への円滑な納入に支障をきたすおそれもありますから」
それでは、国会議員さえも閲覧できないのかと尋ねてみた。

「国会審議に必要なら、議員が申請書を館長あてに出して閲覧できるようになっています。行政機関との軋轢はあると思いますが、国会に属す当館として、国会による行政へのチェックという点で、そこは譲れない一線です」
かろうじて「譲れない一線」という言葉が出た。しかし国会図書館が主体性を失い、本来の役割を果たせず、政府による密約の情報隠蔽に加担したと批判されても仕方ない。国会議員だけではなく、誰もが再び自由に全ページを閲覧できるようにすべきである。

国会図書館側は、「利用禁止措置は永久ではなく、社会状況の変化などに応じて定期的に見直す」としている。「政府からの圧力はなかった」というが、客観的に見れば行政府から立法府への干渉・圧力があったといえる。
国会図書館において『実務資料』は長年公開されてきた。それをなぜ2008年5月に、法務省は非公開要請へと動いたのだろうか。

考えられる理由としては、同年5月17日に共同通信が、「日本に駐留する米兵らの事件をめぐり、日米両国政府が1953年に『重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する』との密約に合意し、日本側がその後約5年間に起きた事件の97%の第1次裁判権を放棄していたことが、17日までに機密解除された米側公文書で分かった」という記事を配信し、新聞各紙で報じられたことである。

同記事は、「日本政府は現在も『裁判権の放棄はない』としているが、沖縄県などで相次いでいる事件は不起訴となるなどして日本の公判廷で裁かれないケースも多く、事実上の裁判権放棄が慣例化している」と述べ、
「刑事裁判権をめぐる密約の存在を示す一連の米公文書は、沖縄女子中学生暴行や神奈川県横須賀市のタクシー運転手刺殺など米兵関連事件が相次ぎ、地位協定見直しを求める要請が強まる中、『他国より有利』と見直しを拒否している日米両国政府の主張に疑問を投げかけるものだ」と指摘している。

記事は『実務資料』については触れていない。しかし、この密約の存在を示す日本側公文書こそが『実務資料』である。
米兵犯罪の頻発が反感を呼び、基地のある自治体や住民から地位協定見直しの声が強まるなか、法務省は同資料の存在を知られたくないはずだ。米軍再編に伴う新基地建設や部隊移転、横須賀への原子力空母配備などに及ぼす影響も考えただろう。

この共同通信記事が出たのと同時期、国際問題研究者の新原昭治も米兵犯罪の裁判権放棄に関する密約について都内で講演し、その内容が新聞などで報じられている。
「密約の存在を否定してきた日本政府にとって、『実務資料』の内容が広く知られると困るわけです」と新原は、法務省による非公開要請の政治的背景を推察する。

つづく(文中敬称略)
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