米海軍横須賀基地神奈川県にある米海軍横須賀基地の正門。在日米軍基地・演習場(施設・区域)は現在、全国に85ヵ所ある。

国家が情報を隠蔽するとき

25 米軍優位の規定を隠す書き替え
「合意事項」とその要旨である「刑事裁判管轄権に関する事項」とで、重大な食い違いがある点を具体的に挙げてみたい。なお、下線は筆者が説明のために引いた。
「合意事項」第9項(「合衆国軍隊の構成員等の逮捕等」)の(a) には、こう書かれている。
「合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族を日本国の当局が逮捕した場合には、その逮捕を行った官憲は、直ちに、もよりの合衆国軍隊憲兵司令官に対しその旨通知し、当該犯罪が合衆国の当局が裁判権を行使する第1次の権利を有するものであるとき又は当該犯罪が公務の執行中に行われたものであるか否かが疑問であるときには、被疑者の身柄を当該憲兵司令官に引き渡すものとする。合衆国の当局は、当該被疑者の公務執行の点に関しすみやかに決定を行い通知するものとする」(『実務資料』p.129 )
一方、それが「刑事裁判管轄権に関する事項」では、「第8.逮捕に関する事項」の(2)として、こう書き替えられている。
「合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族を日本国の当局が逮捕した場合には、直ちに、もよりの合衆国軍隊憲兵司令官に対しその旨通知し、当該犯罪が合衆国の当局が裁判権を行使する第1次の権利を有するものであるとき又は当該犯罪が公務執行中に行なわれた疑があるときには、被疑者の身柄を当該憲兵司令官に引き渡すものとする。合衆国の当局はすみやかに当該被疑者が公務の執行中であったと認めるかどうかの決定を行ない通知する
双方で異なっているのが下線部分である。だが、「当該被疑者の公務執行の点に関しすみやかに決定を行い通知する」と「すみやかに当該被疑者が公務の執行中であったと認めるかどうかの決定を行ない通知する」は、表現は異なるが、同じことを意味している。

問題は、「行われたものであるか否かが疑問であるとき」と「行なわれた疑があるとき」である。
米軍人・軍属によるその犯罪が、公務の執行中に「行われたものであるか否かが疑問であるとき」とは、公務執行中だったのかどうか疑問であり、公務執行中だったという疑い・可能性もあるが、公務執行中ではなかったという疑い・可能性もある場合を意味する。
つまり、公務執行中だったのかどうかはっきりしない場合である。従って、公務執行中だったのかどうか疑わしいが、公務執行中ではなかったとはっきりしない以上、身柄はすぐに米軍側に引き渡さなければならないということになる。

ところが、公務の執行中に「行なわれた疑があるとき」だと、公務執行中だったという疑いがある場合を意味する。つまり、公務執行中だったらしいという可能性がある場合だ。従って、公務執行中だったらしいと見なせれば身柄は引き渡すが、公務執行中だったらしいと見なせなければ引き渡さないということになる。
要するに、公務執行中だったと見なせない以上は、日本側で身柄の拘束を続けてもいいということだ。しかし、これは正式な「合意事項」の規定とは異なる。あくまでも日本政府による書き替えなのである。
このように比べてみると、正式な「合意事項」の規定は米軍側に有利で、日本側には不利である。公務執行中だったのかどうかはっきりしないのに、第1次裁判権がどちらにあるのかまだわからないのに、被疑者である米軍人や軍属の身柄を米軍側に引き渡さなければならない。公務執行中ではなく、日本側が第1次裁判権を有する可能性もあるにもかかわらず。
これは米軍人・軍属の逮捕と身柄引き渡しをめぐる一種の密約だといえる。
つづく(文中敬称略)
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