米軍FA-18戦闘攻撃機

米海軍厚木基地を拠点に訓練飛行する米軍FA-18戦闘攻撃機。市街地上空を低空飛行して基地に着陸しようとしている。過去に何度も米軍機墜落事故が起きた。
国家が情報を隠蔽するとき

36 米軍機墜落・不時着現場での措置をめぐる秘密合意
問題の「合意事項」には、米軍優位の合意内容がまだほかにもある。しかもそれを覆い隠すために、「合意事項」の要旨として日本政府が公表している「刑事裁判管轄権に関する事項」で、意図的に重要な部分を書き替えたり、削除したりしているのである。
その一例として、米軍の飛行機やヘリコプターの墜落事故現場や不時着現場での措置に関する「合意事項」を取り上げてみたい。
それは「合意事項」の第20項(合衆国軍用機の事故現場における措置)である。なお、文中の下線は説明のために筆者が引いた。
「合衆国軍用機が合衆国軍隊の使用する施設又は区域外にある公有若しくは私有の財産に墜落又は不時着した場合には、適当な合衆国軍隊の代表者は、必要な救助作業又は合衆国財産の保護をなすため事前の承認なくして公有又は私有の財産に立ち入ることが許されるものとする。但し、当該財産に対し不必要な損害を与えないよう最善の努力が払われなければならない。日本国の公の機関は、合衆国の当局が現場に到着する迄財産の保護及び危険防止のためその権限の範囲内で必要な措置をとる。日米両国の当局は、許可のない者を事故現場の至近に近寄らせないようにするため共同して必要な統制を行うものとする」(『実務資料』p.133)

ysd_img529.jpg『実務資料』に載っている、「合意事項」第20項(合衆国軍用機の事故現場における措置)。[上の画像をクリックすると拡大します]

米軍の軍用機が基地外の公有地や私有地に墜落または不時着した場合、米軍は救助作業や機体回収作業などをするため、土地の所有者から「事前の承認」を得なくても現場に立ち入れると合意されているのである。
ところが、日本政府が国会に提出し、外務省のホームページでも公表している「刑事裁判管轄権に関する事項」の第10項(4)では、上記の合意文の下線部分が、こう書き替えられている。
「事前の承認を受ける暇がないときは、適当な合衆国軍隊の代表者は、必要な救助作業又は合衆国財産の保護をなすため当該公有又は私有の財産に立ち入ることが許される」
これは似て非なるものだ。「事前の承認を受ける暇がないとき」だと、事前承認を得るのが原則だが、緊急時なので承認を得る時間がないため、やむを得ず立ち入るという解釈になり、一見、日米対等の合意であるかのようだ。
しかし、「合意事項」全文の方が正式の合意なのである。新原が米国立公文書館で入手した米政府解禁秘密文書の「合意事項」の英語の正文も、確かに「事前の承認なくして」となっている。
従って、『実務資料』に載っている「合意事項」全文の方が正確な訳であり、『実務資料』の巻末には英語の正文も収録されている。
「日本政府は、米軍に有利な強い権限を与えた合意を覆い隠そうとして、意図的に書き替えています。しかも正式な合意事項の全文は秘密にしたままです。外務省は『公表されないことが日米間で合意されている』と言いますが、米政府はすでに解禁して公開しているんですよ」と、新原は日本政府の姿勢を批判する。
2004年8月13日に米軍ヘリコプターが沖縄国際大学に墜落したとき、米軍は大学の承認もなく事故現場に立ち入り、現場を封鎖して日本側関係者を入れなかった。米軍の強引な行動の裏には、この秘密合意があったのだ。

ysd_img535.jpg外務省ホームページに載っている、「刑事裁判管轄権に関する事項」第10項(4)。[上の画像をクリックすると拡大します]

私が「合意事項」全文と「刑事裁判管轄権に関する事項」の食い違いについて外務省北米局日米地位協定室に質すと、次のように返答があった。
「合意事項の内容を日本政府で整理してまとめ、公表している。全文を公表しないのは、日米間で公表しないという合意があるから。公表しないと日米安保条約や国内法で定められているわけではないが、日米間の合意がないとやはり公表できない。国民に知らせたくないから、全文を公表しないというわけではない」
しかし、公文書の重要な部分の書き替えや削除はもはや整理ではなく、偽造ともいえるのではないだろうか。
つづく(文中敬称略)
記事一覧