坂道を農村から買い出してきた食糧を運ぶ男性。都市の卸し商売人に売る。1キロ当たり30ウォン程度の利益にしかならず、貧しい都市住民がやる仕事だという。(2010年10月平安南道 キム・ドンチョル撮影)(上下ともキム・ドンチョル撮影)

坂道を農村から買い出してきた食糧を運ぶ男性。都市の卸し商売人に売る。1キロ当たり30ウォン程度の利益にしかならず、貧しい都市住民がやる仕事だという。(2010年10月平安南道 キム・ドンチョル撮影)(上下ともキム・ドンチョル撮影)

 

分析 食糧難をどう考えるべきか 4
石丸次郎

4. 市場には食糧がある
見てきたとおり、北朝鮮では「優先配給対象」も食糧に事欠く日常を送っているのが現実である。ところが「市場に行けばコメもトウモロコシも小麦粉も、豚肉も酒も餅もたくさん売られている。それらはほとんどが国内産だ」(キム・ドンチョル記者)という現象が一方で並存しているのである。

この市場にある食糧は商売人たちのもの、つまり「民間保有食糧」である。一方、「優先配給対象」に支給すべき配給というのは、金正日政権が「国家保有食糧」から準備しなければならないものである。その量的質的な低下が著しいのは、金正日政権が確保不能に陥っていることを物語っている。

前述したように、軍糧米が足りないからと、住民や農民に米を出せと強要しているのは、結局、生産と輸入では足りなくなって、「民間保有食糧」に手を出したということだ。国民から収奪して凌ごうということに他ならない。

「国家保有食糧」が不足する大きな理由の一つに不正腐敗の問題がある。権力を持つ幹部たちが、本来は配給に回すべき食糧を市場に横流ししているのだ。水田のほとんどすべては、国家が管理する農場や機関で耕作されている。

ところが市場に並ぶコメのほとんどは、キム・ドンチョル記者が言うように国産なのである。市場に並んでいるコメやトウモロコシなど「民間保有食糧」の少なくない部分は、本来「国家保有食糧」だったのではないか、というのが筆者の推測である。ここにも、北朝鮮式社会主義経済が、市場に侵食されて崩れる様を見ることができるだろう。
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