(2)電力不足
深刻な電力難も、穀物生産に文字通り暗い影を落としている。電力事情は90年代以降、改善する兆しを一向に見せておらず、明かりのない暮らしを強いられているという証言は枚挙に暇が無い。
「電気の供給は、お正月と2月の金正日・4月の金日成の誕生日以外では、5月の農業準備期に少しばかりあるだけです」(黄海南道40代女性)

「電気は保安部(警察)、保衛部(情報機関)、病院などには供給されていますが、(居住する)住宅にはこの三月まで、朝晩の食事時間に二時間ずつ供給されたぐらい。ろうそくも高くて買えないので、夜は早く寝るか、油を沁み込ませた綿をランプ代わりにします」(黄海南道30代農民男性)
電力不足によってポンプが動かせず、田畑に安定して水を供給することが困難になっている。

水力発電は、冬季には河川が凍結するため著しく発電量が落ちる上、季節によって水量が異なるため不安定だ。火力発電は、豊富で良質な石炭を利用できる好条件があるのだが、この数年は外貨稼ぎのために大量の石炭を中国へと輸出しており、国内需要分が不足する事態に陥っている。

電力不足は黄海道に限らず、平壌中心部や羅先特別市などを除いた他の地域でも深刻だ。例えば5月初現在、咸鏡北道会寧(フェリョン)市一帯では、中心部を除いて電気の供給がほとんどないと、現地の取材協力者が伝えてきている。

(3)届かない肥料、農薬、営農資材
5月10日、朝鮮中央通信が「全国で『田植え』が一斉に始まった」と報じた。だが、田植えの大切な時期に施すべき肥料がまったく足りないようである。
北朝鮮では従来、国内の化学工場で生産した肥料を、協同農場へと割り当てていた。だが先述の電力難に加え原料も不足しており、肥料生産はずっと低調であるため、流通する化学肥料は中国から輸入されるものが大半を占めている。

本来ならば冬から春にかけての時期に、協同農場ごとに生産計画に基づいて肥料が届けられなければならないのだが、現実はそうなっていない。輸入肥料を含めても必要量にはまったく不足している上、横流しが横行しているのだ。
「数年前から農場には肥料がほとんど入って来ないそうです。現場に届くまでの間に、横流しされてしまうのです」(黄海南道40代女性)。

時期と、窒素や尿素などの原料にもよるが、黄海道の市場では、キロあたり4000ウォンから8000ウォンで化学肥料が売られている。
これは本来、作業班ごとに配られるべきものを、中央・道の幹部、協同農場の管理委員長(トップ)、分組長、作業班長など「中間の幹部」が横領し、市場に横流ししたものがほとんどだ。肥料無しでは収穫が期待できない農民たちは、それを購入することになる。
「配られる肥料では足りないため、不足分は市場で農民たちが自腹を切って買わなければなりません」(黄海南道30代農民男性)。

国家から農場に供給されるべき肥料が、幹部たちによって農民に売りつけられているのも同じだ。農民にとっては、「肥料不足=収穫高低下」という問題を、肥料を購入させられる形で押し付けられており、現金負担が増えて生活を二重に圧迫しているのが現実だ。農薬やビニール、トラクターなどの営農資材もまったく不足しており、農民に自己負担が強いられている。
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