左奥が国境の都市、両江道恵山市。年々厳しくなる国境警備の中でも、密輸は依然として行われている。間を流れるのは鴨緑江(2010年6月 中国側よりリ・ジンス撮影)

「国境警備隊が要求する賄賂の額がはね上がったせいで、豆満江を渡るのが難しくなった」。

「保衛部(情報機関)の連中が電波探知機を持ってうろうろしているせいで、こうして電話するのも一苦労だ。周りも不満の声ばかりだ」。

一一年になって、このように内部の取材協力者たちが、緊張した朝中国境沿線地域の様子を、伝えてくることが多くなった。検閲(取締り)部隊が、平壌 をはじめ各地から次々と派遣されてくる度に、国境沿線では締め付けが厳しくなるのだという。その検閲部隊の中でもひと際悪名高かったのが「暴風軍団」だ。 いかめしい名前を持ったこの部隊は、両江道や咸鏡北道に突如現れ、一ヶ月余りの間、その名の通り嵐を巻き起こし去っていったそうだ。

「八月になって突然派遣されてきた『暴風軍団』が、恵山(ヘサン)市の、誰彼かまわず取締りを始めたため、蜂の巣をつついたような大騒ぎになりまし た。その後、『目立ったらやられる』と思ったのか、国境沿線全部が息を殺したように静まり返っています。大胆で知られる中国に麻薬を密輸している連中まで が、どうなるものかとじっと様子を窺っているほどです」。

八月中旬、恵山市に住むチェ・ギョンオク氏が現地の緊張の様子を、こう電話で伝えてきた。恵山市は鴨緑江を挟んで中国側の都市・長白県と向き合う。 川幅は狭い所では一〇数メートル、広くても二、三〇メートル程であるため、昔から密輸や脱北が盛んで、当局にとっては重点的な取締り対象地域であった。そ れにしても、「暴風軍団」とは聞きなれない名称だ。私(リ・ジンス)はチェ・ギョンオク氏に「暴風軍団」について取材を依頼した。彼女は顔馴染みの保安員 (警官)や国境警備隊員らに会って「暴風軍団」の実態を調べ、あらためて報告してくれた。

記者:「暴風軍団」とはすごい名前ですけど、具体的な目的は何でしょうか?
チェ:主な目的は、麻薬売買、重犯罪、密輸、脱北の幇助、韓国(海外)ドラマや映画などの鑑賞・流布、中国の携帯電話を使って海外に国内情報を流出 させるなどの、いわゆる「非社会主義行為」と呼ばれるものの取締りです。八月の初め頃から一ヶ月の予定で来ています。人数は一〇〇人ほどで、分駐所(警察 詰所)に五人ずつ配置されています。五人のうち一人は軍官(将校)で、残り四人は一般の兵士ですね。

記者:軍官と兵士で構成されているということは、彼らは軍人なんですか?
チェ:そうです。私が取材した関係者によると、「暴風軍団」は全国各地から選抜された優秀な軍人で構成されているとのことです。年齢は二〇歳から二 九歳までで、恵山に来たのは平安南道の陽徳(ヤンドク)郡や徳川(トクチョン)市で選ばれた軍人たちだそうです。特別な訓練を受けて来たそうですが、連中 が具体的にどこの部隊の所属なのかまではわかりませんでした。
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