北朝鮮で今月22日から、大規模なマスゲーム・芸術公演「アリラン」が始まった。2007年に規模の大きさからギネスブックに載り、北朝鮮当局が世界に類を見ない傑作と誇る。しかしその内容は徹頭徹尾、金父子礼賛パフォーマンスであり、動員される子どもたちは、勉強そっちのけで訓練に動員され、長時間の公演ではまともにトイレにも行けないなど、酷い扱いを受ける。人権侵害の温床と言っても過言ではない。この大マスゲーム初回から見続けてきた脱北者の記者・ペク・チャンリョンが実態を二回にわたって報告する。(訳リ・ジンス)

中学生によるサーカスまがいの演目も「ウリ」だ。練習は半年に及ぶという。写真は「アリラン」と称する前の1995年の集団体操。撮影 石丸次郎

中学生によるサーカスまがいの演目も「ウリ」だ。練習は半年に及ぶという。写真は「アリラン」と称する前の1995年の集団体操。撮影 石丸次郎

 

◇競技場周辺に漂う排泄物の臭い
「アリラン」の本番の公演時にも子どもたちは強いストレスにさらされる。トイレに行く暇もなく、公演の最中に立ったまま用を足す場合がほとんどである。「アリラン」公演が行われる「5月1日競技場」は、大同江の中洲・綾羅島(ルンラド)に位置しているが、公演準備期間中から本番の間中、競技場の周囲は参加者たちの排泄物で埋めつくされる。参加者たちの数は、競技場の収容可能人数を遥かに超えており、トイレがまったく不足しているのだ。

このため、公演参加者はもちろん、海外から訪れる多くの観光客も悪臭に顔をしかめていた。特に、小便のアンモニア臭が強く漂い、鼻や目に痛みを覚えるほどである。公演は夏に行われるためなおさらだ。そんな中で訓練を行わなければならない、参加者たちの苦労は言うまでもないだろう。

公演は夕方に行われるが、参加者たちは明け方に競技場に集合しなければならない。特に「一号行事」と呼ばれる、故金正日総書記による観覧時には、前日から競技場で待機することになる。訓練と本公演に疲れ果てた参加者たちは、狭い空間に集められ座ったまま眠りにつくため、移動の際、指導教員たちが起こして回るのに苦労するほどだ。

参加者たちの苦痛は、公演開始直前の待機時間にピークに達する。演じる順番通りに並んで、ぎゅうぎゅうになって列を作り、そのままの態勢で観客の入場が完了するまでの2、3時間耐えなければならないからだ。やはりこの時間にもトイレにいくことができない。カードセクションを担う学生たちは、さらに酷い状態にある。彼らは、観客の入場が始まってからは身動き一つ取れずに、カードを掲げたまま座っていなければならないのだ。
このように、真夏の暑さの中、公演参加者たちは、滝のような汗と排泄物を垂れ流しながら必死の想いで耐えているのである。
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