国家安全保障戦略と武器輸出緩和
秘密保護法案を強行採決した安倍内閣は、戦争体制の構築に向けて拍車を掛けている。
2013年12月17日の閣議では、外交・安全保障政策の基本方針となる国家安全保障戦略、新防衛大綱、中期防衛力整備計画を決定した。それらの根底には、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認を視野に入れた、自衛隊の装備増強すなわち軍備拡大路線がある。

そのなかで、国家安全保障戦略に武器輸出緩和への新原則が盛り込まれたことに着目してみたい。新原則は、「武器輸出三原則などがこれまで果たしてきた役割にも十分配意した上で、移転を禁止する場合の明確化、移転を認め得る場合の限定及び厳格審査、目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保」などに留意しつつ定めるとのことだ。

武器輸出三原則(以下、三原則)とは、1967年に当時の自民党・佐藤内閣が、共産圏諸国、国連決議で武器輸出先として禁止された国、国際紛争の当事国やその恐れのある国への武器輸出は認めない方針を表明したことを指す。76年には三木内閣により、三原則以外の国への武器輸出も慎むと表明され、事実上の武器輸出禁止を意味した。

武器の国際共同開発・生産へ
しかし、1983年に中曾根内閣が自衛隊の次期支援戦闘機の日米共同開発計画・対米技術供与を三原則の例外とし、2004年には小泉内閣が弾道ミサイル防衛システムの日米共同開発・生産を同じく例外とした。2011年、民主党・野田内閣は三原則の例外適用の個別判断をやめ、国際共同開発・生産の基準を定めて包括的に例外化する方針をとり、米国以外との武器共同開発・生産も可能になった。

安倍内閣も今年3月、米国を中心に国際共同開発中の最新鋭ステルス戦闘機F35の生産に日本企業が加わるにあたって、イスラエルを想定した紛争当事国への日本産の同機部品輸出を認めた。三原則を骨抜きにする緩和措置である。六月には、米英に次いでフランスとも武器共同開発・生産を合意した。

それらの延長線上に今回の武器輸出緩和への新原則もある。前出の中期防衛力整備計画には、「我が国の防衛生産・技術基盤の技術力の向上や生産性の改善を図り、国際競争力を強化するとの観点から、我が国として強みを有する技術分野を生かした、米国や英国を始めとする諸外国との国際共同開発・生産等の防衛装備・技術協力を積極的に進める」とあり、実質的な武器輸出解禁に向けた動きが進みそうだ。

軍需産業界の要望
そうした動きの背景には、日本の企業が国際共同開発・生産などを通じて世界の武器市場に進出し、海外でも利益を獲得できるように、三菱重工、川崎重工、IHI(石川島播磨重工)、富士重工、NEC(日本電気)、三菱電機、東芝、日立製作所など、防衛産業と呼ばれる軍需産業の業界が経団連などを通じて、三原則の緩和、見直しを政界に求めてきた事実がある。

それを受けて、自民党や民主党の中で三原則の緩和と武器の国際共同開発・生産の推進が政策化されていったのである。防衛省・自衛隊もむろん足並みをそろえている。

武器の国際共同開発・生産が広まっている今日、日本企業もそこに参加した方が、最新の軍事技術を導入できるし、生産コストも下がるといわれる。しかし、それは軍事的・経済的合理性を優先させる発想だ。憲法9条を持ち、平和を国是とする国、日本のあり方としては大いに問題がある。
共同開発であれ、部品などの素材供給であれ、武器輸出で企業は利益を得るかもしれない。

しかし、アメリカを筆頭にロシア、イギリス、フランス、イタリア、中国など各国の軍需産業が武器を生産し輸出することで、世界中に大量の武器が出回り、世界各国で軍事力が増強され、破壊力と殺傷度も高まり、国際紛争や国内紛争に使われて、民間人を含めた多くの被害者が生み出されているのが現実だ。

軍産複合体と「死の商人」
このように武器輸出とは、世界各地のどこかで緊張、対立、紛争を引き起こすことに結びついている。そして各国の軍隊は緊張、対立、紛争を理由に軍備を増強する。結果的に大量の武器も売れる。

つまり、他国の人びとが紛争・戦争によって傷つき、血を流すことを前提に利益を得ようという発想が、武器輸出の根底にはあるのだ。「死の商人」と呼ばれるゆえんである。

だから、これまで日本は国際紛争を助長しないように、憲法9条を持つ国として武器輸出を控えてきた。ところが、それをなし崩し的に形骸化させ、平和の理念よりも軍需産業や自衛隊の経済的・軍事的合理性を優先させる動きが加速している。

武器の国際共同開発・生産を進めても、日本の場合、弾道ミサイル防衛システムの国際共同開発・生産の例でも明らかなように、結局アメリカの軍需産業の主導下に日本企業が組み込まれることになるだろう。結果的に、巨大なアメリカの軍産複合体に従属するかたちで日米軍需産業の結びつきが深まるのである。

アメリカでは軍隊と軍需産業が結びついた軍産複合体が政治を動かし、膨大な軍事予算を獲得して武器を生産し、米軍による調達とともに、世界各国に輸出をして利益をあげている。こうした軍産複合体のシステムに日本企業も組み込まれてゆくだろう。

常に対立と戦争を必要とする"戦争中毒国家"アメリカに付き従って、他国の人びとの流血と死を前提に利益を得るような国になっていいのか。 これから先、日本人はそうした問いとますます向き合うことになる。
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