京大原子炉実験所の今中哲二さんは、東京電力福島第一原発事故の直後に福島県飯舘村に入った。9月末、今中さんは「放射能に耐える時代」と題し講演。放射 能汚染の現状を報告するとともに、「フクシマ後」の時代にどう向き合うか提言した。【鈴木祐太、栗原佳子 新聞うずみ火】

京都大学原子炉実験所の今中哲二さん。講演では放射能汚染の現状を報告した。(2014年9月大阪市内にて撮影・樋口元義)

京都大学原子炉実験所の今中哲二さん。講演では放射能汚染の現状を報告した。(2014年9月大阪市内にて撮影・樋口元義)

◆防災体制まで内部崩壊

今中:
3年半前、事故が本当に起きてしまいました。東京の土を採ってきて機械で調べれば、セシウムのピークがすぐに出てくるという状況です。ただ、娘も東京に住んでいますが、私自身は、すぐに避難した方がいいといういレベルではないと判断しています。

もちろん避難という選択をした人もいますし、それぞれだと思います。そういう選択にあたり、放射能が何なのか、放射線とは何なのか、そして、被ばく がどういうものか、できるだけ確かな情報・知識をもとに判断していただきたい。その手伝いをするのが、福島の事故以降の、専門家としての私の仕事の一つだ ろうと思っています。

福島で何が起きたのか。例えば私が調査に入っている飯館村は福島第一原発から30~40キロ。人口6000人。事故まで全く原発に関係なく暮らし、 苦労して村おこしをして飯館牛というブランド牛もできて、さあこれからというときに放射能が空から降ってきました。全村避難です。

村は帰還困難区域の長泥地区を除いて再来年春の避難指示解除を目標にしていますが、役場と復興庁が去年行ったアンケートでは、帰りたい人は2割しか いませんでした。帰りたいというお年寄りは帰る選択もあるでしょう。行政や電力会社は希望に添ったかたちでケアしなければいけないと思います。

◆除染という環境破壊

今中:
ところが実際に行われているのは除染という名の環境破壊。毎日4000~5000人の作業員が入り、飯舘村だけで3000億円もの費用をかけているそうです。情けないことに、お金がどんどんこうして流れていくシステムに歯止めがかからないのです。

原発が事故を起こすと国家が破滅するほどの規模になることは、やる前から分かっていました。1960年、科学技術庁などが事故の被害額を1兆円と試 算しました。国家予算が1.7兆円の時代です。それでも日本は原発をやりたい。試算は、推進にあたって保険制度をどうするか調べるためのものでした。

電力会社とすれば、いざ事故を起こしたら大変な被害が出るようなものは、危なくて手が出せない。だから政府は特別に原子力災害賠償法を作りました。 電力会社が事故に備えて賠償のため積み立てる金額に上限を設けたのです。当時の額で50億円。それ以上大きな被害が出たらどうする? あとは国会の議決で 国でどうにかしましょうという法律です。それによって初めて日本の原発が動き始めました。

日本の54基の原発は政府・原子力安全委員会が全てお墨付きを与えてきました。私が原発をうさんくさいと確信したのは64年にできた「原子炉立地審 査指針」です。立地に関する基本的な指針で、《重大事故を超えるような技術的見地から起るとは考えられない事故の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放 射能災害を与えないこと》とある。これを普通の人が普通に読めば、日本に原発を作る場所はありません。でも安全委は、日本の全部の原発は基準を満たしてい ると言っているのです。

裏のカラクリは「都合の悪いことは最初から考えない」ということです。福島の事故があそこまでひどくなったのは、津波で非常用発電機が動かなくなっ て電源がなくなったから。しかし、安全審査で行なわれている指針の一つには「長時間にわたる電源喪失は、送電系統の復旧又は非常用ディーゼル発電機の修復 が期待できるので考慮する必要がない」とあります。これが裏でやられていたことなんです。本当に、福島は人災です。

福島の事故で驚いたことの一つは、東電も含め、原発の安全に責任を持つべき人たちが、原発は安全だと思っていたことです。一番の問題だと思います。 そりゃあないでしょう。私は1969年から原子力に関わり、原子力は危険物で、常に最悪の場合を考えて対応しろと叩き込まれてきました。それなりの想像力 を持ってあたっていれば、ここには津波がくる、来たら大変だと。彼らはそれを全くなくしてしまっていたということだと思います。

3月15日午前11時の会見で、当時の菅総理と枝野官房長官が「2号機の格納容器が壊れたようだ」と発表しました。私はその瞬間、福島もチェルノブイリになったと確信しました。格納容器が放射能漏れを防ぐ最後の壁だったわけですから。

当時は放射能汚染のデータが全くと言っていいほど出てきませんでした。テレビでは東大の先生なんかが「大丈夫」などと言ってたんですが、どう見ても 大変な汚染が起きている。自分で計測せんとしゃあないと思いました。日本中に原子力の施設はたくさんありますが、こういう事態が起きたとき自分で動けるの は、実は大学の専門家しかいないんですよね。(つづく)
【鈴木祐太、栗原佳子 新聞うずみ火】

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