かつて日中戦争で戦場となった中国の農村地帯 撮影 吉田敏浩

かつて日中戦争で戦場となった中国の農村地帯 撮影 吉田敏浩

 

物語の舞台は中国の中部か南部の農村地帯。時代はアジア・太平洋戦争中、いや正確にいえば、1937年(昭和12年)の蘆溝橋事件に端を発する日中戦争(その元は1931年の満洲事変にさかのぼります)のさなかです。日本軍が侵攻して中国各地を占領しています。

「ぼくたちはそれで隠れたつもりでいたのだ。村からは家々の家具をうちこわす音や門の扉を次々に手荒く外す音、石畳を曳かれてゆく馬の折々けつまず いたり、すべったりして立てるカチカチという蹄鉄の音がつづいていた。靴の裏の鋲をカチカチ鳴らして敵の兵隊は次から次へと侵入した。村にすっかり入って しまうと一時静かになったが、やがてあちらでもこちらでも家の壁を丸太でつきくずしはじめた。それと共に、村外れの井戸へ通う兵隊たちが幾組も現われて来 た。百姓たちに腰縄をつけ水桶をかつがせ、呑気そうに小銃や棒を肩にしながら追いやっていた。」(『往生記』)

村に侵入した日本軍のふるまいを、物語の語り手で、無名の中国人青年である「ぼく」は、丘のふもとに潜みながら見つめています。老人や老婆だけは乱暴をされないので村に残り、あとの百数十人の村人は郷長に従って村を離れ、小山の中腹にある鍾乳洞に隠れていました。

「ぼく」は1人の男と2人の女とともに、穀物を運び出して隠すために村のそばまで来ていたのですが、日本兵に見つかってしまいます。

あわてて逃げだしましたが、女たちはつかまってしまい、草むらで日本兵に犯され、そして村へと連れ去られます。