自民党若手国会議員が6月25日に開いた勉強会で、議員と作家の百田尚樹氏が普天間基地に関して事実誤認をし、沖縄の2紙を「潰せ」などと発言した問題 は、気に入らない言論を封じたいという与党の本音を露呈させた。名指しされた社の一つ、沖縄タイムスの石川達也編集局次長に話を聞いた。 (栗原佳子/新 聞うずみ火)

沖縄タイムスの石川次長。手に持つ「社是」には言論の自由、責任公正、気品を堅持する、などとある。(撮影 栗原佳子)

沖縄タイムスの石川次長。手に持つ「社是」には言論の自由、責任公正、気品を堅持する、などとある。(撮影 栗原佳子)

 

◆政権に寄り添うのではなく、県民の立場に立つのを偏向というなら、偏向の意味とはなんなのか

勉強会の翌日、沖縄タイムスは1面と社会面のトップでこの問題を報じた。「沖縄タイムスと琉球新報を潰さないといけない」という発言以外に、百田氏が普天間基地の成り立ちについて事実誤認の発言をしたことも独自取材できた。

百田氏の立場を私人と捉えれば、表現の自由というのはあると思う。だが、「田んぼだった」「戦後、商売のために集まってきた」などの事実と異なる説明をされ、あたかも正論という結末になっているなら正さないとならない。

普天間基地のあるところは少なくとも1万近い人が住む町の中心部だった。松並木が美しかったという。住民が金のため近づいてきたかのようにいうが、せめて先祖から受け継いだ土地の近くに戻りたかったのだ。

戦争で家も家族も奪われた人たちにすれば、こういう言動がまかり通ることは許せないと思う。普天間だけでなく嘉手納でもそうだ。沖縄にはいたるところに基地がある。その周りに住む人達にとっても許しがたい暴論だろう。

軍用地主が六本木ヒルズに住んでいるかのような発言もあった。投機目的の人もいるだろうが、それをもって全てを語るとは。実際は、年間100万円に満たないような額しかもらっていない人が多い。

沖縄タイムスは1948年に誕生した。県民を戦争に導いたという苦い教訓をどう生かすか。そこからの出発だった。今回のことは言論の自由の弾圧だと 受け止めている。勉強会では議員から「沖縄の新聞は左翼が支配している」などの発言も出た。「偏向」と言うが、うちは権力に対しても是々非々。政権に寄り 添うのではなく、県民の立場に立つのを偏向というなら、偏向の意味とはなんだろうか。県民にどういう影響を与えるかを考え、県民のためにならないなら正面 から権力にノーを言わねばならないと思う。そういう意味で、ノーさえ言わさないというのなら由々しきことだ。覚悟を持って抗していかねばと思う。

共同通信の多くの加盟社が、私たちの抗議声明を載せてくれた。みな言論への挑戦と受け止めていて心強かった。ただ、ここ数日、中央メディアは安保法制を絡めた政局の視点にシフトしていると思う。本質は言論への挑戦だが、それを見誤っていないだろうか。

◆東京では、名指しされた沖縄2紙が会見。 しかし他の新聞社やテレビの編集局長は出席せず

7月2日、東京で沖縄タイムスと琉球新報の編集局長が共同会見した。他の新聞やテレビの編集局長はなぜ同席しなかったのか。2社だけ指名されたのかもしれ ないが、他のメディアも議員に「懲らしめる」と言われているのだから、会見に出てもおかしくない。米軍基地問題も、安全保障の観点から日本全国の問題だ が、「沖縄の基地問題」と言われる。今回のことも「沖縄の問題」に矮小化されてしまうことを一番懸念する。【栗原佳子/新聞うずみ火】

 

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