この町の人口は公表されていても、西サハラの民サハラーウィの数や、モロッコからの入植者の数などの内訳は記されていない。
サハラーウィとモロッコ人を外見から見分けることは、不可能に近い。エルアイウンの町を歩けば、町の賑わいを観察することはできる。しかし、通りですれ違う人たちのなかにいるはずの、サハラーウィに気づくことは難しい。あなたはモロッコ人なのかサハラーウィなのか、ここでなにを想うのかと聞き重ねていれば、早晩、あの「ニタっと笑う男」のような者に嗅ぎつかれてしまう。
エルアイウンで強制退去させられた人権団体やジャーナリストは後を絶たない。西サハラ最大都市エルアイウンは、サハラーウィの声と足音が、最も聞こえにくい町でもある。(つづく)

エルアイウン中心部から、遠景に北の入場門が見えた。スマートフォンでこの写真を撮っていると、前を警官が走り抜けた。(エルアイウン・西サハラ/El Ayoun, Western Sahara 2018 撮影:岩崎有一)

2003年に泊まったホテルで働いていた少年。彼はスペイン語で話しかけてきた。ここがスペイン植民地だったことから、西サハラではスペイン語の話者が多い。いっぽう、モロッコ人入植者にとっての第一外国語はフランス語だ。この少年はきっと、サハラーウィだったのだろう。(エルアイウン・西サハラ/El Ayoun, Western Sahara 2003 撮影:岩崎有一)

エルアイウンで知りあえた唯一のサハラーウィ。ホテルで働く彼女とは、2003年に出会った。別れ際に渡されたメモには、彼女のメールアドレスとともに、「私たちのことを忘れないでください。あなたの友だち 〇〇(彼女の名前) サハラーウィ」と書かれていた。このメモを見て初めて、私は彼女がサハラーウィなのだと知った。2018年、彼女との再会は果たせなかった(エルアイウン・西サハラ/El Ayoun, Western Sahara 2003 撮影:岩崎有一)


【岩崎有一】
ジャーナリスト。1995年以来、アフリカ27カ国を取材。アフリカの人々の日常と声を、社会・政治的背景とともに伝えている。近年のテーマは「マリ北部紛争と北西アフリカへの影響」「南アが向き合う多様性」「マラウイの食糧事情」「西サハラ問題」など。アジアプレス所属。武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。
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