北京を訪れた金正恩氏を迎接した習近平主席。2019年1月中国中央電視台ニュースより引用。

北朝鮮国内の中国に対する感情は複雑である。

政治的には、かつて同じ社会主義陣営に属し、朝鮮戦争を共に戦った友邦である一方、改革開放に舵を切って社会主義を捨てた「修正主義」であり、1992年に宿敵韓国と国交を結んだ裏切り者であった。時に強い圧力をかけてくることに対しては、大国主義だと激しい反発を見せてきた。

経済的には、多大な支援をしてくれたし、貿易の9割を依存し外貨を稼がせてくれる有難い存在、恩人だといえる。

一方この20年、経済交流を通じて、かつてない規模の外部情報と資本主義文化が浸透している。直間接的に改革開放圧力もかけてくる。約1400キロの国境を接することもあって、中国は、北朝鮮にとって強い警戒対象でもあった。

■金正恩時代になって対中感情悪化

金正日氏が最後に訪中したのは2011年5月。その7カ月後の彼の急死によって、北朝鮮は金正恩時代に入る。

若く未熟で実績もなく、自国民にリーダーとして認知もされていなかった金正恩氏は、対内的には、張成沢(チャン・ソンテク)をはじめ、絶対服従・絶対忠誠に欠ける実力者を粛清して「唯一領導体系」の確立を強引に進めること、対外的には、核・ミサイル開発に邁進することを、自分の体制の生存戦略をとした。

金正恩政権は対中貿易を拡大させることを経済成長の動力とした。一方で、中国の強い反対に耳を貸さず、2013、16、17年に核実験を強行した。この間、北朝鮮国内では、「日本が100年の敵なら中国は1000年の敵だ」、「中国に対して何の幻想も持ってはならない」という激しい表現が、住民対象の学習会などでしばしば使われた。

北朝鮮社会に中国への警戒心が広く拡散することになり、一般住民間でも対中感情は悪くなっていった。

「自分の欲しか考えない奴ら」「北朝鮮に来る中国人貿易商、観光客は貧乏人ばかりだ」、「我が国が貧しいから、仕方なく付き合ってやっているのだ」、「テノム」(垢で汚れた奴)…。北朝鮮の一般庶民と話していても、このような「嫌中」発言が、普通にポンポン飛び出した。
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