◆経済制裁の主役・中国に対する反発

ところが、2018年3月に金正恩氏が初訪中して以降、北朝鮮当局は、住民対象の対中非難宣伝を控えるようになる。それどころか、人民班会議では、「中国に対する悪い態度を改めよ」、「中国からの訪問者を決してぞんざいに扱うな」と、指示までするようになった。政権自ら煽った反中感情を鎮めなければまずい。そんな思惑があったのだろう。

現在、北朝鮮は国中が経済制裁の影響で苦しんでいる。制裁は米国主導で国連安保理で決議された国際社会からのペナルティである。しかし、その実行は、貿易の90%を占める中国がほとんど担っている。

金正恩氏は、昨年3月から今年1月まで4度も訪中した。にもかかわらず、経済制裁が緩和される兆しは見えず、逆に今年に入ってからは、税関検査の強化や密輸の取り締まりに本腰を入れるなど、中国による締めつけは強化されている。

北朝鮮の幹部も一般庶民も、自分たちの生活悪化、経済の苦境の直接的な原因は、中国が北朝鮮からの輸入止めているからだということを知っている。

習近平主席の訪朝決定の報せを聞き、北朝鮮国内の数人に、対中感情はどうなのか訊いた。

「米国による圧迫よりも、中国が米国の顔色を窺って制裁を続けていることに強い反発があります。中国は友邦である朝鮮を軽んじていると考える人が大部分ではないか」
取材協力者の一人は、このように答えた。

習近平訪朝で、すぐに経済制裁が緩和されることはない。援助をしようにも、制裁の制約を超えるものは提供できない。可能なのは食糧や医薬品と電力程度だろう。

それでも北朝鮮の住民の大部分は、習近平氏の訪朝を歓迎し、成果を期待するだろう。しかし時間が経っても経済改善が実感できないなら、失望も大きくなるし、それは金正恩氏に向けられることになるだろう。(石丸次郎)

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