
困窮した都市住民の中で、「最後の手段」として、山奥に入って自給自足で生き延びようとする「焼畑民」が続出しているという。本来なら働き盛りであるはずの40代男性や離婚した女性の他、党員までいるという。一体なぜ山奥に向かうのか? その背景には、現金収入減と高インフレの影響がある。両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市の取材協力者が5月中旬に伝えてきた。(洪麻里/カン・ジウォン)
◆1年で白米233%、トウモロコシ163%の高騰
「焼畑民」とは、居住地を離れて深い山奥に入り、野を焼いて畑作して生活をする人々を指す。朝鮮半島では古くから「火田民」と呼ばれていたが、北朝鮮では1990年代半ばからの「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉の時代に大量に出現した。当面の食糧を持って山奥に向かい、雨風をようやくしのげる程度のビニールシート張りのテントや掘っ立て小屋の中で身を潜めて自給自足をする。当然、電気も水道もなく、都市とは断絶された原始的な暮らしだ。協力者は、最近こうした選択をする人が続出していると報告する。
協力者は、「食べて行くのが難しく、商売もできないから、山に入って山菜を採ったり畑を耕したりして生活しているのだ」と話す。しかし、なぜ「食べて行くのが難しく、商売もできない」のか?
金正恩政権は、コロナ・パンデミックを機に、商売など個人の経済活動を厳しく制限。都市住民の現金収入は激減した。加えて、物価は1年前と比較して白米が233%、トウモロコシが163%も上昇する凄まじいインフレーションだ(アジアプレス調査)。国営企業の労賃(給料)は固定のため、購買力は急落した。
では、どのような人たちが山に入って行くのだろうか。
「年寄りが多いが、男やもめや、離婚して親を扶養している女性もいる。男性は40代以降の、白髪混じりになるくらいの年代の人が多い。物価が上がってにっちもさっちもいかなくなり、(市内での生活を)諦めたということでしょう。党員もいると聞いている」

◆企業が稼働できず働き盛りの層が山へ
同時に金正恩政権は、食糧の流通を掌握し、国家の統制下に置いた。ジャンマダン(市場)での食糧販売は禁止され、住民たちは企業に勤めることで支給される少量の食糧配給に加え、国営の食糧専売店「糧穀販売所」で購入するしか、ほぼ主食を手に入れる方法がなくなってしまった。
しかし、企業によって配給と労賃が滞ったり支給できなかったりするケースが増えているという。
「企業は多少稼働しているところもあるが、ほとんどが稼ぎになっていない。貿易や賃加工以外は全て大変で、周りを見ても賃加工をしていない人はいない」
工場を稼働させようにも、深刻な資金難のため回らない。そのため、中国から搬入された原材料からカツラや付けまつげなどを作る内職(賃加工と呼ばれる)で収入を得ている住民が多いというわけだ。完成品は中国に輸出されるが、北朝鮮の重要な外貨稼ぎ源になっている。
つまり、職場から配給をもらい、不足する食糧を「糧穀販売所」で労賃で買って生活するという制度設計が破綻してしまったのだ。国家は働き手のいない「絶糧世帯」(食べ物もお金も尽きた世帯)には、洞事務所を通じて無償で少量の食糧を支給している。協力者が「男やもめや、離婚して親を扶養している女性ら」が山に入っていると話すのは、働き手が1人しかおらず、職場に出なければいけないが、労賃も食糧配給も十分でないため食べられない人々が山に行く選択をしたことを意味する。
◆山火事起こすと罰金1000万ウォンもしくは教化刑の処罰
山で焼畑暮らしをするのは、住民にとっては生きるための選択だとしても、国家からすると職場や組織から離脱する行為に他ならない。恵山市の労働党委員会は、「焼畑民」の取締まりに乗り出しているという。
「5月16日には、女性同盟の講習と生活総和で、生活が苦しいからといって山に入ったり森林をむやみに開墾したりする行為について処罰するとし、山火事、土砂崩れなどを引き起こした場合、罰金1000万ウォン、深刻な場合は教化刑(懲役)に処されると通知された。
各組織でも組織生活をせずに山に入って生活している人々を調査し、掌握・統制せよという党委員会の指示が伝えられた。女性同盟員では、5人が一組となって、組織生活から抜けることのないように相互監視せよと要求している」
※女性同盟:主に職場に籍を持たない主婦で構成される組織。
※組織生活: 北朝鮮の全ての住民は職場や女性組織、青年組織などに所属して、労働党による日常的な統制を受けている。組織から離脱することは処罰対象になる。
※1000万ウォン:約23,730円(5月22時点のレート)。国営企業の一般労働者の労賃は3万5千~5万ウォン程度であり、約200カ月分の労賃に相当する莫大な罰金だ。
◆「山に行く」とあえて置き手紙残す理由
恵山は中国との国境都市のため、長期間家を空け、職場にも出ないと脱北の疑いが生じる。脱北は政治問題として厳しい処罰を受けることになるため、住民たちはあえて山に入る前に「置き手紙」で対策を取っているという。
「○○洞のとあるアパートでは4世帯が山に向かったそうだ。最初は集団脱北だと騒ぎになったが、白岩(ベガム)方面の山に入っていたそうだ。中国に逃げたと疑われないように、山に入るときは『生活が苦しいので山に入る』と手紙を書いて家を空け、月に1、2回下山して家に戻っているそうだ」
当局は、「焼畑民」の取締まりのために山奥までパトロールしているが、抜本的な解決策には程遠い。
「取締まりをしても見つかるのは高齢者ばかりだ。若い人たちは身を隠し、取締まりが終わればとまた小屋で生活している。(政府は)組織的に対策を取れというが、(市内に再び)連れて戻しても飢死するだけだ。どうしようもない状況だ」
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
























