横田基地に飛来した米軍ジェット戦闘機(2018年撮影・吉田敏浩)

◆日本の主権を侵害し、米軍に特権を認める

日米合同委員会の密約の数とその全貌はわからないが、わかっているだけでも以下のとおりだ。(吉田敏浩・アジアプレス)

【1】「民事裁判権密約」(1952年)、米軍機墜落事故などの被害者が損害賠償を求める裁判に、米軍側は不都合な情報は提供しなくてもよく、そうした情報が公になりそうな場合は米軍人・軍属を証人として出頭させなくてもいい。

【2】「日本人武装警備員密約」(1952年)、基地の日本人警備員に銃刀法上は認められない銃の携帯をさせてもいい。

【3】「裁判権放棄密約」(1953年)、米軍関係者(米軍人・軍属・それらの家族)の犯罪事件で日本にとっていちじるしく重要な事件以外は第1次裁判権を行使しない。

【4】「身柄引き渡し密約」(1953年)、米軍人・軍属の犯罪事件で被疑者の米軍人・軍属の身柄を公務中かどうか明らかでなくても米軍側に引き渡す。

【5】「公務証明書密約」(1953年)、米軍人・軍属の犯罪事件で米軍が発行する公務証明書を、起訴前の段階でも有効と見なして公務中とし、日本側が不起訴にする。

【6】「秘密基地密約」(1953年)、軍事的性質によっては米軍基地の存在を公表しなくてもいい。

【7】「富士演習場優先使用権密約」(1968年)、自衛隊管理下で米軍と自衛隊の共同使用になった富士演習場を、米軍が年間最大270日優先使用できる。

【8】「航空管制委任密約」(1975年)、「横田空域」や「岩国空域」の航空管制を法的根拠もなく米軍に事実上委任する。

【9】「航空管制・米軍機優先密約」(1975年)、米軍機の飛行に日本側が航空管制上の優先的取り扱いを与える。

【10】「米軍機情報隠蔽密約」(1975年)、米軍機の飛行計画など飛行活動に関する情報は、日米両政府の合意なしには公表しない。

【11】「嘉手納ラプコン移管密約」(2010年)、「嘉手納進入管制空域」の日本側への移管後も、嘉手納基地などに着陸する米軍機をアメリカ側が優先的に航空管制する。

なお、「   」中の密約名は、その秘密合意の本質を端的に表すために私がつけたものである。それぞれの密約が記された合意文書には、日米合同委員会の分科委員会名などが出てくる事務的な名称がつけられている。

たとえば【1】「民事裁判権密約」の場合は、「合同委員会第七回本会議に提出された一九五二年六月二一日附裁判権分科委員会勧告、裁判権分科委員会民事部会、日米行政協定の規定の実施上問題となる事項に関する件」というようにである。

密室で取り決めたそれらの秘密合意は、日本における米軍の特権を認め、米軍優位の地位協定の構造をより強固なものとする裏の仕組みといえる。 続きの第5回を読む >>

[日本は主権国家といえるのか?]連載一覧>>

*関連図書
『「日米合同委員会」の研究』謎の権力構造の正体に迫る(創元社)吉田敏浩 2016年
『横田空域』日米合同委員会でつくられた空の壁(角川新書)吉田敏浩 2019年
『日米戦争同盟』従米構造の真実と日米合同委員会(河出書房新社)吉田敏浩 2019年

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