『最高裁部外秘資料』の表紙

◆ 日本での米軍人犯罪などの裁判が公正に行われてこなかった理由

前回述べた日米合同委員会の様々な密約のひとつ、「民事裁判権密約」について詳しく説明してみよう。
(吉田敏浩・アジアプレス)

米軍機墜落事故や米軍人の犯罪事件の被害者が損害賠償を求める民事裁判において、米軍側はアメリカの利益を害するような情報などは証拠のために提供しなくてもよく、また、そうした情報が公になりそうな場合は米軍人・軍属を証人として出頭させなくてもよいという密約である。

その密約が記されている文書の名称は、次のとおりだ。なお、文中の「合同委員会」とは日米合同委員会を意味する。

「合同委員会第七回本会議に提出された一九五二年六月二一日附裁判権分科委員会勧告、裁判権分科委員会民事部会、日米行政協定の規定の実施上問題となる事項に関する件」(以下、「実施上問題となる事項」)

この文書は、最高裁判所事務総局が1952年9月に編集・発行した、『部外秘 日米行政協定に伴う民事及び刑事特別法関係資料』(以下、『最高裁部外秘資料』)に収録されている。まさに関係者以外には知られない部外秘の文書である。  

『最高裁部外秘資料』は、米軍人・軍属・それらの家族による事故・事件に関係する民事裁判や刑事裁判において、担当する裁判官が参考にするものだ。

同資料はある大学図書館に所蔵されている。そのなかに日米合同委員会の「民事裁判権密約」を記した「実施上問題となる事項」が載っているのを、私が発見した。

おそらく米軍関係の裁判を担当したことがある元裁判官の死後、遺族が蔵書を処分した際に『最高裁部外秘資料』も古書店に売り、大学が研究資料として購入したのだろう。

「実施上問題となる事項」は、1952年4月28日の対日講和条約、日米安保条約、日米行政協定(現地位協定)の発効にともない、日米合同委員会が設置されてまもなく合意された文書である。

日米合同委員会の裁判権分科委員会民事部会(後に民事裁判管轄権分科委員会)で、日米双方の委員が日米行政協定第18条(請求権・民事裁判権)の規定をめぐって協議し、合意した事項を議事録としてまとめ、1952年6月21日付の分科委員会勧告として日米合同委員会本会議に提出した。

そして同年7月30日の日米合同委員会の本会議において一部修正のうえ承認され、正式な合意となった。

裁判権分科委員会民事部会の日本側委員は法務府(現法務省)の官僚、アメリカ側委員は米陸軍法務局の将校である。それぞれの人数はわからないが、双方の責任者名と肩書は文書の末尾にこう書かれている。

「裁判権分科委員会民事部会日本側委員長 平賀健太
 裁判権分科委員会日本側委員長     鶴岡千仭

 裁判権分科委員会民事部会合衆国側委員長
            法務局陸軍中佐 アルドー・エイチ・ルース
 裁判権分科委員会合衆国側委員長
            幕僚部陸軍大佐 シー・エー・ラングフォード」      

平賀健太氏は当時の法務府民事法務長官総務室主幹で、後に法務省民事局長になり、鶴岡千仭〔せんじん〕氏は法務府渉外課長で、後に法務省入国管理局次長や外務省国際連合局長を歴任した。

開催場所は書かれていない。しかし、日米合同委員会とその分科委員会は、外務省や他の関係省庁、都内の在日米軍施設などで開かれている。

したがって、法務府か、外務省か、当時の米極東軍司令部か、在日米軍の宿泊施設「山王ホテル」かだったと思われる。

いずれにしても関係者以外は立ち入れない密室での協議だったことはまちがいない。 続きの第6回を読む >>

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*関連図書
『「日米合同委員会」の研究』謎の権力構造の正体に迫る(創元社)吉田敏浩 2016年
『横田空域』日米合同委員会でつくられた空の壁(角川新書)吉田敏浩 2019年
『日米戦争同盟』従米構造の真実と日米合同委員会(河出書房新社)吉田敏浩 2019年