本屋「フルハウス」は柳さんの著書をはじめ、柳さんの好きな作家や漫画家、写真家の本がたくさんの手書きのポップとともに並ぶ(撮影:大村一朗/南相馬市)

◆安全な下校と電車の待ち時間を

柳: 番組の100回目が小高工業高校の井戸川義英先生でした。井戸川先生は生徒たちに活字離れが進んでいるので、ちょっとでも本を読みたくなるような講演をしてくれないかと言われ、番組に出ていただいたというのもあるので、私も講演を引き受けたんです。そしたら継続して小高工業高校で1年生に文章表現と自己表現の講義をしてくれないかと言われて、それはボランティアで20数回行ったんです。当時まだ小高が避難指示を解除されていなかったので原町の仮設校舎に通っていました。そうした中で先生方から、小高商業高校と工業高校が合併して、小高産業技術高校になって小高に戻るんだという話を聞いたんです。今、小高の人口は3620人ですが、避難指示解除当時はもっと少なくて、そこに生徒たち500人が通うようになるわけです。いまでこそぽつぽつとお店が出来ているけど、避難指示解除の当時はそういうものはなにもなく、唯一あった駅前のエンガワ商店さんも夜7時には閉まっていました。
私、生徒たちに作文を書いてもらっていたんです。「私の好きなこと」というタイトルで作文を書いてきてって言って、それを添削していたんですね。100人くらい。そうすると部活が好きだという子が結構多くて、部活が終わる時間もだいたい分かるんですよ。割と終電になる子がいるんです。〔小高駅の〕終電は夜9時20分。その時間はエンガワ商店さんもやっていないし、小高駅は夕方6時以降無人駅になるんですね。先生方から親御さんがこういうことに不安を感じているという話が聞こえてくるんです。女の子を持っている親御さんなら、人通りがない町で、連れ去りとか。空き家も多いので、空き家に連れ込まれたりすると助けを呼びようがないじゃないですか〔*〕。それで、なんとか9時20分で明かりがついていて、何かあったら逃げ込めるような場所をと思って、本屋を開いたんです。ダイヤが少ないので電車待ちにも。そこに時計と時刻表を貼っているんですけど、3分あれば走っていけるので、3分前までここにいて走っていきますよ。

〔*筆者注:当時の南相馬市には地元以外の外部の人が多く出入りし、治安も含め不安を覚える住民は少なくなかった
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