(参考写真)両江道のヘサン市場の女性商人たち。主に中国元で取引してきた。2013年8月に撮影アジアプレス

◆突然30%上昇し当惑広がる

異変が感知されたのは10月末のことだった。北朝鮮ウォンの対中国元、米ドル実勢交換レートが突然急騰したのだ。

今年に入ってからの外貨市場における交換レートは、1元が1200ウォン程度。それが一時約30%高の830ウォンになった。1ドルは8200ウォン程だったのが約20%高の6500ウォンに上昇した。

20~30%ものウォン高に、北朝鮮の住民たちの間でも戸惑いが広がった。北部両江道(リャンガンド)の取材協力者は次のように伝える。

「元もドルもまだまだ下がるはずだと、急いで内貨(ウォン)に替えようとする人もいれば、中国との貿易が再開すれば元に戻ると言う人もいる。市場の商売人たちは、商品の値付けに困っていた。貿易会社の人間の中にはチャンスだと元、ドル買いに走る者もいる」

さて、北朝鮮ウォンは交換価値を認められておらず、国際為替市場で取引されていない。そもそも北朝鮮の「外貨市場」とはどのようなものなのだろうか?

北朝鮮国内で調査した外貨レートと物価の推移一覧。(アジアプレス)

◆外貨闇市場を徹底取り締まり

北朝鮮当局が公表している公式レートは1ドル=約100ウォンだが、国内には実勢レートで交換する外貨闇市場が別に存在する。朝鮮貿易銀行が非公式に毎日実勢レートを公開しており、「トンデコ」と呼ばれる非合法の両替商たちは、それを参考に独自の情報を加味して交換レートを定めている。この実勢レートが今回大きく変動したわけだ。

流通する外貨は、平壌は米ドルが中心だが、他地域は中国元が優勢だ。この十数年、ウォンは国内で信用を失い、住民は日常生活で幅広く外貨を使うようになった。

「豆腐一丁を買うのも中国元を使う」「賄賂や罰金も中国元で支払う」と、地方都市の住民たちは説明する。

ウォンが使えないわけではないが、商人たちは一日の商売が終わると両替商にウォンを持ち込んで元に替える。資産防衛のためだった。

外貨保有に対する最初の不安は昨年11月初旬に始まった。突然、外貨使用を厳格に取り締まり始めたのだ。きっかけは金正恩氏の<方針>だった。

「外国紙幣は丁寧に扱うのに自国のお金を粗末に扱う現象をなくせ」と正恩氏が批判、これ以降、市場では取り締まり要員が倍増され、外貨使用に目を光らせて、発覚すると全額没収という厳しい措置が採られた。「トンデコ」の検挙も続いた。

外貨使用の取り締まりを名目に、住民たちの手持ちの外貨を吸収し、合わせて自国通貨の下落を防ぐのが金正恩氏の<方針>の目的だったと、筆者は見ている。
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