APN_yanagimoto_031110.jpg台湾のパイワンという小さな民族である。
左は、サキヌ、42歳。小さい頃は、日本語で「リクツ」とよばれていた。あれこれ理屈をきいて反抗したせいだという。高校卒業と同時に山を下りたリクツは、カネがないので無償の警察学校に進み、台北でケーカンになった。

そして、ある晩、ひょんなことから、鉛筆を握った。
幼い頃、父に連れられて、山を巡り、ムササビ、サル、イノシシを追った記憶が切なく甦った。それが思いがけず本になった。そして文学賞を受賞し、ベストセラーになった。さらに、かれは、CDも出し、童話も書いた、いつのまにか、作家と呼ばれるようになった。

父は、猟師だ。山を舞台に繰り返される生命の営みを知るうちに、獲物を人間と同じ存在ととらえるようになった。息子に、ムササビには学校がある、イノシシはおれたち猟師のファイルを持っていると教えた。息子の本が出てから、彼は、「台湾最後の猟師」と呼ばれるようになり、二人は台湾でもっとも有名な原住民の父子となった。

人口40万の台湾原住民族のなかから、ものを書き始める人たちが、ここ十年間に、どっと輩出した。その多くが母や父のことを書いた。40代前後、子どもが小・中学校に上がる世代である。時代の狭間で、民族の言葉すらほとんど話せないわが子の成長を見て、原住民の匂いをまだ濃厚に発している両親のことを書き記すことで、失われゆく民族の魂を残そうとした。

どうしても書き留めずにおれなかった、彼らの作品群がこの年末にまとめて邦訳され出版される(台湾原住民文学選第四巻・草風館)。そこから、日本人、中国人と、百年にわたって異民族に支配され続けた、小さな民族の哀切なる逞しさが迫ってくる。
(2003/11/10)