(前頁の続き)どうしても、戦争報道というのは戦局報道に走りがちになってしまうんですね。「イラク南部のバスラはどうなんだ」「バグダッドはどうなんだ」と。それから、「自分のついている歩兵部隊はこんなに難儀している、シャワーも浴びられない」などと言う。シャワーが浴びられなくてそれがどうしたと思いますけどね。ストックホルム症候群といって、自分が長く取材しているところに同情してしまう。

個別の事実としては事実ですが、全体としては大変な嘘になってしまうし、戦争というものを正当化してしまう報道になる。これは大変恐ろしいことだと思います。この魔術、罠から巨大メディアが今回のイラク戦争では特に、一歩も出られなかった。ベトナム戦争期よりもです。戦争の全体像を見渡すことができなかった。これはいわばマスメディアの犯罪と言ってもいいと思います。戦争機能のなかにマスメディアがすっぽり入ってしまったのです。もちろん個別の例外はあるわけだけど、全体としては救いようのないくらいそういう構造になってしまったというのが僕の印象です。

戦場という巨大な罠
野中
ここでメディアの話が出てきたのでメディアの話をしたいと思います。これは、辺見さんも指摘されているし、僕も直接、エンベット取材した人たちに会って話を聞いたのですが、今もって不可思議なことがあります。一つは、エンベット取材で米軍の取材をした人達は会ってみるとナイスガイなこと。そして、自分たちは善意をもって何の先入観もなしで行ったと言うわけです。

ここで二つよく挙げる例を出します。一つは、朝日新聞の野嶋さんが4月1日に出した従軍記です。僕はあれが出たときに「出すべきではない」と瞬間的に思ったんです。だけど、朝日新聞も6月には単行本で出すことを決めていた。

あの本は「イラク戦争従軍記」となっています。出てすぐに朝日からもらって読みました。この本、190ページある中で、案の定書かれていないことが一つあります。イラクの人たちの姿が全く書かれていないんです。ほんの数ページだけイラク人の姿が出てくるんだけどそれは「米軍に密告するイラク人」となっています。これを書いた野嶋さんという人は非常に好青年なんですよ。年は30過ぎかな。

問題なのは、記者が未熟だということに加え、その原稿がそのまま出てしまうということ、さらにそれが本になるということです。朝日新聞にも直接言ったんですが、どこでもそれがおかしいというチェック機能が働いていないんです。これは記者が未熟だということと同じように、それを取り巻く朝日の記者たちもおかしいと思わなかった。これがまず問題点の一つです。(続く)

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