吉田敏浩×新倉裕史 対談(5)
いじめ、しごきや過酷な労働などが原因となって生じる自衛官の自殺や過労死。生身の自衛官が直面している人権問題を考える。

◆いじめ・しごきの根絶を申し入れる
吉田 新倉さんたち「非核市民宣言運動・ヨコスカ」「ヨコスカ平和船団」「自衛官・市民ホットライン」は、自衛隊のイラク派兵など海外派兵に反対するとともに、憲法9条が自衛官のいのちを守っていると、自衛官やその家族に呼びかけています。

また同じように重要視しているのが、自衛官の人権問題ですね。自衛隊でのいじめ・しごき事件や自殺はマスメディアでも度々報じられていますが、新倉さんたちはこうした問題について調査したり、自衛官からの電話相談も受けたりしています。

そして、一昨年に横須賀を母港とする護衛艦「うみぎり」で起きた、いじめが原因の放火事件の真相究明と、いじめ根絶の申し入れを自衛隊におこなっています。自衛官の人権問題に取り組む意味などについてお聞かせください。

新倉 自衛隊という組織がより「軍隊」化していけば、必然的に自衛官が厳しい状況に追い込まれることは確かでしょう。例えば訓練でも、死を覚悟の実戦を想定したよりハードな訓練になってくると思われます。
また、自衛官の自殺者は増え続け、今年度も月平均の数字から見ると昨年度より増えそうです。昨年度は78人でしたが、今年度のペースでは100人近くになりそうです。もちろんいろんな事情があるため、いじめや訓練の大変さだけが理由ではありません。

「うみぎり」の事件ですが、ずっと悪口を言われて殴る蹴るのいじめを受けていたT海士長が、心理的に追いつめられて鬱憤ばらしに士官室の毛布を焼いたんです。それで捕まっても、横須賀に帰れるならいいと思い込むほど、いじめは深刻だったわけです。自衛隊を辞めるという選択肢すら考えつかずに、切羽詰った思いで放火をしてしまったんですね。

吉田 先輩隊員から「指導」という名の暴行があったそうですね。

新倉 情報公開法で資料請求して、自衛隊の警務隊が捜査した調書を読みました。驚いたことに、閉鎖された艦内でだけではなく、休みの日に遊びに出た横須賀の繁華街で、みんなが見ている前で先輩からビンタされたことがありました。これは完全ないじめですね。

僕らの仲間のひとりは、留置所にいるご本人に面会しました。寡黙な人で、自分からあれやこれやと話すことはなかったそうですが、いじめの事実に関しては語ってくれました。また別の仲間のひとりは裁判の傍聴に行ってます。

この問題で海上自衛隊の横須賀地方総監部に申し入れしたとき、私たちと話し合った幕僚幹部は、暴力行為が指導だという体質は、自衛隊にはないと断言しました。しかし「調査報告書」には、「任務遂行上、危険な状態においても、個々の任務が遂行できるよう体で学ばせる」とあります。幕僚幹部も、「指導」は「部下が立派な自衛官になってほしいという純粋な気持ちで行うもの」といい、そこに行き過ぎが生まれる下地があることを暗に認めているのです。

確かに死ぬか生きるかですから、言葉で理解するよりも体で反応しなければいけない。訓練が勢いで暴力的になるのは素人判断でもわかることです。総監部の複数の人間から聞いたんですが、昔の自衛官は何も文句を言わなかったが、いまの若者は弱くなったからそうした「教育」をいじめやしごきと受け取る人が増えた。自衛隊の問題ではなく若者の問題だというわけです。

いま自衛隊が戦場に行かされることの現実味は増しています。だから、それに見合った訓練の激化が進んでいることは考えられます。いじめ・しごき事件や自殺の問題を通して、訓練の激化に対してリアルに反応する若い自衛官の「悲鳴」が聞こえてくるようです。しかし、自衛隊はそれを「悲鳴」として聞いていない。平和運動の側にも「悲鳴」が聞こえていない、あるいは聞こうとしていないのかもしれません。
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