吉田敏浩×新倉裕史 対談(8)
自治体には国家の暴走を止める平和力がある。自治体の権利をさまざまに駆使してこんなことができる!

ヨットを乗り入れての抗議行動(撮影:ヨコスカ平和船団)

《海の基地に船を乗り入れる「平和船団」》
新倉 その後、1987年に「ヨコスカ平和船団」をつくって、米海軍基地のなかにヨットやゴムボートを乗り入れて抗議行動などを始めたんです。基地のなかに市民が船を出せたことに、はじめは当たり前だと思っていたので特に自覚はしませんでしたが、やがてその行為が持つ重大な意味に気づきました。

それから、港湾法や日米地位協定(日米安保条約に基づく地位協定)の施設管理権の問題を勉強しました。

吉田 米海軍基地の海の部分である「横須賀海軍施設水域」は日米地位協定に基づいて日本政府が提供している水域です。基地の陸の部分は「横須賀海軍施設」といいますが、そこに入ると逮捕されてしまいますよね。

新倉 まず入ることが困難ですね。仮に入れたとしてもすぐにたたき出されるか、ついてなければ逮捕されて裁判にかけられます。ところが、海の部分である水域では米軍は僕らにまったく手が出せないんです。
それはなぜかというと、そこは横須賀市長が管理する港湾だからです。

戦後つくられた港湾法という法律では、港湾の管理を自治体に委ねたんです。だから、米軍は日本政府から水域を提供してもらっても、まったくフリーハンドな管理権をもらったわけではないんです。あくまでも、港湾の管理権は横須賀市長にあるわけです。

吉田 提供している水域内に船を乗り入れるには、横須賀市に届出をすればいいんですか?

新倉 抗議行動をする場合は、海上保安庁の横須賀海上保安部に行事届けを提出します。港湾で工事をして形状を変えたりすることの許認可権や、船舶・艦艇の港湾使用の許認可権は市長にありますが、港湾での抗議行動などは港則法に基づいて海上保安部に許認可権があるんです。

しかし抗議行動ではなく、単に写真撮影や船で基地を案内したり、カヤック・レースをしたりする場合には保安部への届出も、市への届出も必要ありません。ただ、陸上部分に上がらせないための施設管理権に付属するエリアとして、岸から48メートル以内には入ることができません。

僕らは提供水域に国内法に守られて入り、国内法によって行動の自由を保障されるわけです。 *吉田 港湾法の成り立ちですが、これは戦前の日本の港がアジアを侵略する戦争のために使われたことへの反省からできたと聞いています。

新倉 戦前は、軍港に限らず商業港も国家が一元的に管理をしていました。敗戦後、主要な港は接収されました。そして、横浜港と神戸港の接収を解除するにあたり、自治体が港湾管理の主体となる法律をつくるようにGHQ(連合国最高司令官総司令部)から指導があって、それに基づき1950年に港湾法という法律ができました。

何冊か港湾法の解説本を読みましたが、「戦後民主的改革のひとつ」というフレーズが出てきます。憲法前文や第9条に日本の平和主義が明文化されていますが、平和主義はそこだけに規定されているわけではなく、港湾法や地方自治法や教育基本法など戦後つくられた多くの個別法に平和主義が埋め込まれているんです。

具体的には、国家の力の分散化です。相対的に自治体の力を強くして、国家の暴走を止めるためのもうひとつの政治権力としての自治体の役割が明確に意識されているんです。「国の力を小さくして、自治体の力を大きくする」ことのわかりやすい例が港湾法なんですよ。

吉田 なるほど、そういうことにつながってくるわけですね。自治体の平和力のひとつの拠りどころとなる港湾法。それは平和主義の理念を通じて憲法と結びついている。そして憲法に保障された地方自治権とも結びついている。別の言い方をすれば、憲法のなかにある源泉から平和力が港湾法というかたちで湧き出ている。そのことがよくわかりました。
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