◆「A先生、起立してください」
A教諭は、平成15年度の入学式において服務違反を理由にすでに一回、戒告処分を受けている。今回の卒業式で不起立をしたとなると、二度目の戒告処分となり、それは免職の可能性をも匂わせていた。

「今回の卒業式で起立しなくても、誰に何も言わなくても処分されるだろうし…。私にも生活があるから、免職ということになったら失うものが多いことは確かなこと。

だけど、どうせこのまま抹殺されていくのであれば、言うべきことはきちんと言っておこうと思って」
A教諭は、「不起立宣言」へと至った心境をこう語った。その根底には、日ごろから「あなたが決めるということが一番大切なこと」、「自分の意志をはっきり持ちなさい」と子どもたちに伝え、むきあってきたA教諭の教育理念もあった。

「A先生、起立してください。A先生、起立してください。都教育委員会の方がいらっしゃっています」
卒業式が始まってすぐに、「国歌斉唱」の時は訪れた。一同が一斉に起立する中、毅然と前を見据え、椅子に座り続けるA教諭。教頭は「不起立」をしているA教諭に対して、先のような注意を二回ほど施した後、「○時○○分、現認しました」と言い、席へ戻っていった。

「現認」とは、「今、ここでこの現場を認めた」という意味の略語である。卒業式におけるA教諭の「不起立」は、証拠としてビデオテープに撮影された。
式が終了した後、校長室では記者会見が開かれた。今後の学校側の対応として校長は、「不起立は、職務命令違反ですので、当然のことながら都教育委員会の方に報告を上げる予定です。ただ、本人を呼んで事情聴取することができておりませんので、今後それをやった上で報告を上げていきたいと思っております」と述べた。

式終了直後に、学校側から事情聴取のため呼び出されたA教諭は、「聴取には弁護士の同席を、」と求めた。しかし、それは認められなかった。結局、A教諭への事情聴取はされないまま、その日のうちに都教育委員会へ報告は上げられた。
(2004年05月07日 中平真由果)

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